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パーフェクトブルーのRenのレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.5
大好きな監督の大好きな映画を初めて劇場鑑賞できた。何度観ても素晴らしいし何度観てもしんどいけど、何度でも傑作と言いたい。こうやってリバイバル上映して後世に残してくれるのはありがたい。広めの劇場が大盛況だったのも嬉しかった。

ここまでアイドルや女優、ひいては芸能・エンタメを「偶像・嘘・虚構」として捉えたバキバキの映画は稀だと思う。後続作品に影響を与えたのも当然で、アロノフスキーが好きそうなのも分かる。

本物ではない自分を演じる自分は本物なのか?という問いが、未麻を、観客を、メビウスの輪のような現実と虚構の無限ループに閉じ込める。代表作『パプリカ』に通ずる強烈な作家性はこの時点で完成していたと再認識。『パプリカ』では虚構の概念そのものを具現化したが、今作は芸能という我々でも分かる現実の要素が一枚噛んでいるぶん理解しやすいとさえ思った。

筋の無い混沌とした物語のように思えてしまうが、明確なルールが二つある。「民衆はメディアを通さないと "芸能人" のことを知れない」「自分の見識は自分の目を通さないと分からない」ということ。
つまりはこの作品に「神の視点」「地の文」といったような完璧な客観視が存在しない。ファンは「アイドルを演じている未麻」をステージの下から見、「女優を演じている未麻を」テレビや雑誌で見る。これが後に未麻が文字通りの幻想を見ることの布石になる。
虚構と知りながらも(無自覚でも)他者を都合良く見ることのキモさから、虚構と知っている自分を見ることの恐怖へスムーズに転移する。

鏡を介して、実物と像で見てくれが変わっている演出が多用される。そして「像=理想」のシーンも「像=現実」のシーンもある。「鏡の中=("自分の目で見た")真実」ということの強調だろう。これ自体は『白雪姫』だけど、今作においてはカッコ書きの中の文言は語り落とせない。

そして何より凄いのは、26年前にこの感覚を具現化していたことだ。もし現代でこの題材を作品化するとしたら、SNSは必須だろう。インターネットによって実態の無い「自分」が組み上げられていく感覚は今や普遍的なものになったけど、それをこの時点で完成させていたのは驚異的だ。家電量販店のテレビに何人もの未麻が映るシーン、亀梨和也の『俺俺』じゃん。SNSの台頭によって世間に固着した感覚をアナログで再現しているのが両者の素晴らしさだと思った。
今作でもインターネット(ブログ)は出てくるが、黎明期のそれなのでネット=世界という感覚はまだ希薄な気はする。

ここまで読むと未見の方は難解な映画と思われるかもしれないが、ミステリ的なある軸の部分の真実は明確に明かされるのでその点は安心してほしい。ミスリードと違和感の撒き方も良いし、ミスリードがミスリードで終わっていなくてちゃんと「見る/見られる恐怖」の話として今作をがっちり支えている。

最後に。「今作はなぜ実写でなくアニメなのか?」問題がある。幻想のアイドル未麻の演出などはアニメだからこそ再現できるし、劇中劇との段差をあやふやにできるし、ここまで悪意のあるキャラクターデザインにできるし、スプラッタやレイプシーンに耐えられる(後者は普通に閲覧注意だけども)し、実写では届かない点は無限にあると個人的に思う。
ある殺人シーン。犯人の顔がコナンのそれのように不明瞭にされている。こういうのもアニメならでは。冒頭のライブシーンで観客たちの顔が省略されていて「今敏ってこういうの拘って描き込みそうだけどなー」と思ったが、「アニメなら、描きたくないものを都合良く選べる」ための説明だと思うと納得した。

初めて劇場で観て、スクリーンに閉じ込められて消費されていく未麻をスクリーンで観ることで、自分も加害者の一部になったようでぞくぞくした。映画館にはこういう効果もあるんだな。天才アニメーター今敏の遺された名作を、風化させないためにこれからも観続けていきたい。

その他、
○ ライブシーンと未麻の日常シーンのカットバック。冒頭でもうこの映画の説明ができてる。既に現実と虚構混ざってる。
○ 未麻が母親と強めの方言で電話するだけで、彼女が夢を掴むため上京し苦労していることを説明していてスマート。
○ 影の中からプロデューサーが出てくるシーンはもうホラーなのよ。
○ エレベーターのシーンは分かっていても怖い。伝説。
○「日本でサイコスリラーやると何でこうなるかな....」といった会話をさらっと入れる強かさ。クリエイターにはこれくらい図太く図々しくいてほしい。これがデビュー作。
○『千年女優』に引き継がれていくジャンプカットの気持ち良さも味わえる。ストーカー接近顔面どアップと車のトランクを閉めるところの繋ぎはなんでか分からないけど気持ち良い。
○ ストーカー野郎の「テイク2だ!」かっこいい。もっと真似されていい名言。
○ 劇場出たら後ろの人が「トラックに轢かれそうになってから何が本当か分からんかった....」と喋っていて嬉しくなった。
○『愛の天使』名曲すぎるわー。ずっと好きだわー。配信してー。
○ と思っていたら『想い出に抱かれて今は』名曲すぎるわー....。
○ と思っていたら『一人でも平気』が90'sアイドルソングとしてちょっと凄い完成度で名曲すぎるわーー。
○ その他関連楽曲→『夢見るシャンソン人形』『アイドル』
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