赤いダッフルコートに身を包みスーツケース片手に決然と西島秀俊の元から去り行く藤田陽子の小さな背中を階段の上から捉えたロングショットは『東への道』を思い出さざるを得ない。あの奥へ奥へと延びる一本道!一枚の落葉が光を受けて一瞬だけ輝く様子の感動的な美しさ。
固定画面へのフレームイン/アウトはどれも見事(つまりほぼすべてのショット!)だが、公園の場面は驚愕。鳩の群れの飛び立ち=フレームアウトからのパン屑に釣られて着陸=フレームイン、その夥しさ!ある程度は演出だが、それにしてもあの量!
階段の手摺を『ダーティハリー』のアンディ・ロビンソンの如く滑り降りる西島秀俊に振り向き様にパンチを食らわせる藤田陽子、西島が倒れる様は階段上のカメラによる俯瞰ショットへのアクションつなぎになるが、このアクションとつなぎは『だれかが歌ってる』でも。
榎本加奈子と藤田陽子の疾走横移動ショット、フレームを追い抜いたり逆に置いていかれたりとあまり見たことないショット。メイキングだとバンにカメラを載せての移動撮影だったが、とくに商店街を駆け抜ける前者のメイキング映像はかなりのスペクタクル。沖田修一によるメイキングは上記以外にも、撮影場所の大家さんがショベルカーを操り自ら撮影のために壁を壊してくれたり、邪魔になりそうな木をチェーンソーで伐採してくれたりと迫力満点。映画撮影の肉体労働っぷりがみっちり記録されてる。