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フィラデルフィアのcatmanのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
3.4
ネタバレしてます。

『観てないんですか?』シリーズ。公開当時はまだ誤解や無知に起因する偏見が強かったであろうエイズの問題に正面から切り込んだ社会派ドラマ。主演ふたりの魅力が効いてるので満足感はあるんだけど、段々と不満が出て来る。

病に倒れたアンディ(トムハンクス)の人生は悲しく辛いものながら、彼自身には何の非も無いが如く悲劇の善人として描かれているうえに、最後まで家族と友人の深い愛に包まれているので絶望感や悲壮感は意外と感じられない。バンデラスが演じる愛人との絆も取って付けた様なダンスシーンだけではその重みは伝わって来ない。弁護士ミラー(デンゼルワシントン)も同様、ひたすらクリーンでハンサムなナイスガイ、常に愛する家族に支えられながら特に大きな挫折にも障害にも遭わずに裁判に勝利するので意外とカタルシスも弱め。彼のゲイに対する古い考え方が変化する理由と過程も分かりづらかった。アンディを解雇した弁護士事務所の役員にしても、その悪人ぶりはまるで漫画の様に一元的で深みが無い。社会派の割には全てが表層的に感じられる。
じゃあ娯楽映画として楽しめるかと言うとそうでもなくって、サスペンス要素が希薄。アンディがHIVに感染した理由には最後まではっきりさせないし、法廷のシーンは駆け引きの要素が乏しく些か退屈だと言わざるを得ない。
トム×デンゼルの演技合戦も期待していたほどでは無かった、と言うのが正直な感想。ケミストリーが足りない。マリアカラスが歌うオペラが好きだと熱弁するシーンも空回り感が強くて彼のパーソナリティを掘り下げる効果を果たしていない。例えば演技スタイルの好き嫌いは別にして、アルパチーノの演説の様にこちらの心情に深く入って来る事が無い。
アンディの病気が徐々に明らかになり、ミラーが彼の弁護を引き受けることを決心するまでの序盤の展開はスピーディ且つスリリングで良かったと思う。

評価の高い作品だけに余計に文句が多くなってしまいました。今度もう一回観てみよう
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