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蛇の道の消費者のレビュー・感想・評価

蛇の道(1998年製作の映画)
4.3
・ジャンル
ドラマ/サスペンス/ミステリー/スリラー

・あらすじ
8歳の娘エミを何者かの手で強姦の末に殺害された宮下は協力者である塾講師の新島と共に犯人を追ってきた
そしていよいよ1人目の容疑者であるヤクザ、大槻の拉致を成し遂げるが彼は犯行を否認
宮下のかつての仲間であった檜山が真犯人であると主張する
動機は宮下が檜山を売ったという疑惑による物だと述べるが宮下は身に覚えがない
やむなく新たに檜山を拉致するが彼もまた容疑を否認
果たして真犯人は誰なのか?
何故、新島は危ない橋を渡って協力するのか?
謎が謎を呼ぶ中、新島は宮下の目を盗み不穏な行動を取り始め…

・感想
Jホラー全盛期に数多くの怪作を世に送り出した黒沢清監督が同年にリングを手掛けた高橋洋の脚本で製作した作品
今年、柴咲コウ主演で監督のセルフリメイク版が公開されたのを受けて履修しておこうと思い鑑賞

誰が真犯人なのか?
協力者、新島の狙いとは?
2つの謎を終盤まで抱えながらも新島の掌の上で踊らされる宮下を演じる香川照之の怪演
淡々と行動し腹の読めない新島を演じる哀川翔の纏う不気味な空気
2人の手で拉致されたヤクザ達や彼らを追う手下達の見せる弱さや情けなさ
三者三様の人物像が奇妙に絡み合い何も分からぬまま狂気が醸成されていく様は同じく黒沢清監督による作品「カリスマ」を思わせる何とも言えないシュールな難解さがあった
結末の非現実性も巧みで前半に新島が塾講師として口にしていた数式の説明が伏線となっており面白い

<ここからはネタバレ注意>
自分の解釈では恐らく新島は時を逆行させる手法を数式から導き出しており、それを利用して同じ事を宮下に繰り返させている
これは新島にとって娘を失った所で時間が止まっている事も示している

新島はかつて娘の命を強姦殺人によって奪われスナッフビデオとして販売された
宮下はそのビデオの販売を請け負っていた過去が有り、内容は知らなかったが共犯として新島の標的に
新島は宮下の娘エミの命を自分の娘にされたのと同じ様に奪い、それを隠して接触
ビデオ製作を行なっていたヤクザ達への復讐に宮下を利用し最後には己の所業を娘のビデオを見せるという形で彼に見せつけている
新島の教え子で数式を彼と同等かそれ以上に理解していた少女は時の逆行を認識
その為、宮下を何とも言えない表情で凝視する
ひょっとしたら彼女は新島の協力者なのかもしれない

絵面としては拉致したヤクザ達への責め苦や彼らの殺害など暴力に満ちているがそれよりも印象的なのが彼らへの扱い
糞尿は垂れ流しを余儀なくされ、食事は床にばら撒き犬食いさせる
組の人間ではあるがビデオに関与していない有賀は普通に食事を手渡しされていた
この対比が新島の憎悪や想いを強調していて後から効いてくる
中盤まで新島は真犯人で宮下にヤクザ殺害の罪を背負わせる事で自分は罪と復讐から逃れようとしているのか?と思っていた
それだけにこの裏切りの展開には驚かされた
ただこの解釈が正解とは言い切れない
終盤の廃工場の場面で大量のテレビにエミの生前の映像が映し出され放送では新島が宮下の犯人へ口にしていた言葉を読み上げていた
ここから浮かび上がるのがひょっとして全ては宮下が催眠下で幾度も見せられている幻影なのではないか?という可能性
それはそれでゾクゾクするストーリーで素晴らしいと思う

本作には暴力や殺人が溢れている
その一方で露悪的なゴア描写等は見られない
心理的な恐怖や惨さが真相を煙に巻きながら冷淡さと混沌とした狂気を背景に滲み出続けているのみ
それが何とも監督らしさを感じさせる良い意味での悪趣味さに繋がっていて魅力的だった

セルフリメイク版は柴咲コウが主演で舞台はフランスとの事だけどどんな感じになっているのか?
配信に来るのを楽しみに待ちたい
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