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英国王給仕人に乾杯!のodyssのレビュー・感想・評価

英国王給仕人に乾杯!(2006年製作の映画)
4.5
【エロス、コミカル、アイロニカル】

傑作と言うに躊躇しない映画です。特に、美形女優とアイロニカルでコミカルな筋書きが際だっています。

小柄な主人公が美女――最初は売春婦――に囲まれているという設定がいい。そして美女たちはみなきわどいシーンを見せてくれる。映画にはこういうシーンが大事なんです。この映画は、滑稽さとエロスとが抜群のセンスで組み合わされているところが、最大の魅力。

時代設定もきわどい。ナチスドイツの時代が出てくるけれど、主人公はナチに共感し、ヒトラーを崇拝する女性と恋仲になって挙げ句のはてに結婚してしまいます。おまけに、彼女がチェコのナショナリストに襲われたところを救うというシーンもあり。ふつう、ナチスは悪だから、逆じゃないかと思うかも知れませんが、ここら辺は監督がチェコ人であるだけに、むしろチェコ人の一面を批判的に捉えたのかな、とも思いました。(といって、文字通りにナチスを讃美しているわけでもないでしょうけど。)

最後では、ナチスから解放されたチェコが今度はソ連の共産主義に包摂されてしまい、その杓子定規な規定によって主人公は財産を奪われ牢獄に入れられてしまうのですから。共産主義に長年苦しめられたメンツェル監督からすれば、大国の動向に左右されがちなチェコ民族への複雑な感情が入った筋書きなのかもしれません。

数年前に『白バラの祈り』に出演し、反ナチス運動で命を落とす英雄的少女ゾフィーを演じたユリア・イェンチが、本作品では「ヒトラー様命」のドイツ女性を演じています。実に痛快な配役ですね。
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