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英国王給仕人に乾杯!のmhのレビュー・感想・評価

英国王給仕人に乾杯!(2006年製作の映画)
5.0
チェコスロバキアの巨匠イジーメンツェルの遺作にして代表作にして視聴困難な一作。
出所したばかりの男が過去を振り返るという形式で、チェコスロバキアの近現代史もひとさらえ。
ひとの好さそうなおっさんが、どうして刑務所に入っていたのだろうというシンプルだが強力なフックでスタート。
だんだん主人公がずるいひとであることがわかってくるけど、そんなんで15年は食らわないのでよっぽどのことをしたんだろうと予想できる。この伏線はラストに回収される。
歴史的な事柄では、
・ナチス・ドイツによるチェコスロバキア解体(いわゆるスデーデン割譲)
・ナチスドイツへの併合。
・レーベンスボルン。
・二月事件(1948年のチェコスロバキア政変)
このあたりをがっちりストーリーに組み込んでいる。
扱いが難しくて手を出す人が少ないレーベンスボルンについての映画がこんなところにあったとは!(ほかには「ソフィーの選択」「誰でもない女」「定められし運命」くらい)
いつもはプロットごとかわいい話が多いイジーメンツェルの映画だけど、今回はシニカルコメディ。かわいいプロットはないんだけど、それでもにじみ出てくるかわいい成分がいいね。
エリート給仕人が、主人公にあしを引っ掛けられて料理を落とす。
それをきっかけに、あたりをめちゃくちゃにするプロットがよかった。こういう、いつまでも残るくだりは最高ですね。
ユダヤ人から略奪した記念切手で財を成したとたん、二月事件で逮捕。共産主義において所有・裕福は罪。で、15年の服役という、小悪党にふさわしい理不尽な懲罰をうけるんだけど、そこで一緒になったのはかつて憧れたセレブのみなさんというわけで、主人公はそれなりに幸せなのでしたというエンド。
DVDには監督のインタビューも併録。
西側に渡って成功を収めたチェコ出身の巨匠ミロスフォアマンと自らを比較して、共産圏で映画制作という選択肢を取ったことなど語ってくれる。
イジー・メンツェルで一本といわれたら、「つながれたヒバリ」かこれですね。
苦労して見た甲斐あったです。あまりに最高でした。
面白かった!
mh

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