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落下の王国のbutasuのレビュー・感想・評価

落下の王国(2006年製作の映画)
4.0
素晴らしかった。足を怪我して入院し自殺未遂までして自暴自棄になっているスタントマンの男がある少女と出会い、彼女を利用するために物語を聞かせていくうちに、自分自身が救われていく話。

まず、主演二人が素晴らしい。特に子役の少女。決して美少女ではないのだが、ちょっとまるっとしていてとても愛嬌があり可愛らしい。表情や話し方もとても演技とは思えないくらい自然体。どうやってこんな逸材を見つけてきたのだろうか。そして彼女に対する演出の仕方も見事で、彼女には「あの人は足が悪くて歩けないんだ」と本当に信じ込ませ、その上で二人の会話は具体的な台詞を細かく決めずに極力アドリブによって進めたらしい。それであんなに自然なのかと納得すると同時に、彼女のふとした仕草や表情を見逃さない、徹底した演出のこだわりを感じるエピソードだと思った。即興で彼女に応えるリー・ペイスも地味にすごい。

そして、物語部分の映像がとても良い。セットや特殊効果やCGなどに特別お金をかけているわけではなく、撮影のアイディアやセンスによってとても面白く美しい映像に仕上がっている。というかこのファンタジーな内容でほぼCGナシってちょっと考えられない発想。世界各国で少しずつ撮りだめて計4年近くかかったとか。すごい。衣装も素晴らしい。かなり個性的でアーティスティックなのに、おしゃれ過ぎずにちゃんとファンタジーとしてまとまるバランス感。この映像の面白さによって、荒唐無稽で陳腐ですらある物語パートを飽きずに夢中になって観続けてしまう。観ているこっちまで少女と一緒に「もっとお話聞かせて!」というテンションにさせるのだからすごい。

即興で作られていく物語には現実の要素が適度に入り込んでおりそれが最初は面白いだけなのだが、話が進むにつれて語り部である男の苦悩や救いが物語に投影されていく脚本の上手さは圧巻。辛い物語になると前置きされても、続きを聞かせてほしいとお願いする少女。それは男の苦悩をゆっくりと受け止めていっているのと同義である。そして物語の主人公が死にそうになったときに少女が泣きながら訴える「彼を殺さないで」に、主人公も語り部の男も救われるのだ。二人の関係が入院中のみであったという終わり方にも、希望と切なさが残る。何回でも観直したい素晴らしい作品だった。
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