よっしい

カティンの森のよっしいのレビュー・感想・評価

カティンの森(2007年製作の映画)
3.7
歴史上のポーランド将校虐殺事件、「カティンの森」を題材にした作品です。

フィクションではなく、歴史上の事実なので、痛快な逆転劇、ハッピーエンドはありません。
ポーランド将校の死までのいきさつと、その家族が見舞われる悲しい出来事が、群像劇として語られます。

しかしアンジェイ・ワイダ監督が描きたかったのは、ただ将校が1万人以上殺された、という事実だけではなさそうです。
まず反省。ポーランド侵攻という出来事は、「ドイツが」ポーランドに攻め込んだものだと思っていました(ほんとうに学が浅い)
この映画から、同時期にソ連も同時にポーランドへ宣戦布告をしていたのだと知り、その絶望感が否が応でも増しました。

西から逃げてくる人はドイツに追われて
東から逃げてくる人はソ連がすぐそこに迫っている

事実上、国を奪われ続けていたポーランドの苦難が冒頭10分で伝わってきます。
日本だったら、アメリカ、中国から同時に宣戦布告されるようなものでしょうか?絶望感は想像もつきません。

また、情報の捏造という点も、観ているうちに苦虫を噛み潰すような思いになります。
結局、ポーランド将校に手を下したのは誰なのか?
戦中のドイツは、ソ連の仕業だといい、戦後のソ連はドイツの仕業だとプロパガンダ映画を流す。
大国のパワーゲームの中で、事実が歪められていきます。

特に隠蔽はソ連のお家芸。ジョージ・オーウェルのSF小説「1984」では国家の情報操作をテーマにしていますが、まさにソ連そのもの。この映画でも共産主義の改ざん歴史を目の当たりします。

ポーランドは国家間の争いの中で血を流すだけではなく、正しい歴史すら消されそうになるところでした。
監督自身も、自身の父をこの事件で亡くされているそうです。父の死を風化させまい。その強い意志が晩年の創作活動の活力になったのでしょうか。
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