ヒロ

問いかける焦土のヒロのレビュー・感想・評価

問いかける焦土(1992年製作の映画)
4.2
『東京画』で“ここには何もない”と語ったヘルツォークの終着点、人間によって撹拌され失われてしまったその土地特有の文化・慣習・伝統、均一化されたこの世の文明にはもう興味はないと。人間に愛想を尽かした彼はそれを体現するかのようにジャングルを始め、雪原、洞窟、火山と愚かな人間が侵入することを許さない圧倒的大自然に目を向け始めた。そこで見つけたのが神聖な誰にも犯されようのない処女的オリジナリティ。今作で彼が目をつけたのは湾岸戦争後のクウェート油田火災。轟々と燃え上がる爆炎、どこまでも立ち上る黒煙、すべてを燃やし尽くす作為的大自然の前に生物は侵入することを許されない、まさに焦土。クラシックに乗せてひたすらヘリでそれを空撮する。人間が火をつけ、人間が鎮火する。そしてまた人間が火をつける。この世界はなんてうまく創られているのかと感心すると同時に、人間の愚かさに笑いがこみ上げてくる。歴史は繰り返す。そしてこの惑星は滅びる。物言わぬ大自然の流暢な演説。
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