シズヲ

マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾のシズヲのレビュー・感想・評価

3.7
すっかり廃れたマカロニ・ウエスタンのロケ地で細々とショーを続けるロートル達の映画。もはや場末のセットもろとも古びた老いぼれと化しているスタントマンの姿はシニカルなユーモアに溢れている。しかし全編を通じて描かれるのは陰で映画を支える彼らやブームと共に過ぎ去ってしまった伊製西部劇への愛。そして生き別れていた孫と祖父の交流劇でもある。ジジイ達の雰囲気やロケーションも相俟って湿っぽくなりすぎていないのが良い。往年の西部劇やスタントマンに焦点を当てた内容は後年のタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を連想させる。

閑古鳥が鳴くウエスタン村にしがみつく元スタントマン爺さんの活力は強烈で、時代錯誤とも取れる身勝手な振る舞いは痛々しさすら感じてしまう。男の価値観と社会の価値観はすでに決定的なほどズレている。そのギャップを拒み続けた果てに到達する臨界点、警察との銃撃戦やメインストリートでの決闘という究極の“西部劇ごっこ”。演じ続けてきた“虚構”が事件と報道によって“本物”と化す構図の粋っぷり。爺さんが抱き続けたロマンへの仰望は西部劇を知らない世代の子供によって継承され、西部劇を共に背負った名優の登場によって無価値ではなかったことが証明される。

とはいえスタントマンの爺さんは普通に自分勝手だし、作中で描かれる現実と虚構の乖離も割と痛切。そのせいで途中までは西部劇的郷愁よりもボンクラぶりに対する哀愁を感じてしまうのがちと切ない。また中盤まではゆったりした展開で進み、銃撃戦が始まってからも場面転換を挟んで買い出しや内輪揉めで引っ張るなど、ある意味マカロニ的な中弛みでテンポを削いでいたのも引っ掛かる。でも21世紀にマカロニ・ウエスタンの浪花節を描いていることからして粋で憎めない映画だ。
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