シズヲ

ソイレント・グリーン デジタル・リマスター版のシズヲのレビュー・感想・評価

3.8
公開当時1973年、舞台は2022年の未来社会……人間がいっぱいのディストピアだ!!過剰な人口増加によって深刻な食糧難が発生し、貧富の差が絶望的に拡大した世界を描いたSFサスペンス映画。この世界において、大量の貧困層は政府によって供給される合成食品で細々と食い繋いでいくのだ。こういう題材も手堅く仕上げてくるリチャード・フライシャーの職人監督ぶりがよくわかる。マッチョなイメージでありつつも『猿の惑星』など強烈な作品で時折見かけるチャールトン・ヘストン、最晩年のエドワード・G・ロビンソンなどが出演しているのが印象的。

“文明の発展”から“荒廃した現代”への転換を目まぐるしいモンタージュで映し出したオープニングでまず度肝を抜かれる。人口爆発・環境汚染・資源枯渇を経た未来という題材の啓蒙性もさることながら、作中でビジュアルとして提示される世界観のディティールが強烈。人々で溢れかえるアパートの階段、見るからに限界寸前の教会、配給所にごった返す貧困層……。人口過多や富の独占の果てに人間性を失い、半ば“生きる物体”へと成り果てた群衆の描写にこそ本作の凄味がある。まるでゴミのように重機で人々が排除されていくシーン、絵的なインパクトに溢れている。

こういう直接的な貧困の描写以外も先鋭的で、一部の美しい女性達が“家具”として金持ちに買われているのが嫌な質感に溢れている。知識を持った老人は“本”となり、影から社会を俯瞰して見つめる存在と化す。また絶望的な社会構造において“ホーム=安楽死施設”が公共の施設として極めて清潔に描かれているのが怖すぎる。それ自体が体の良い人口処分であることに加え、最期の尊厳が甘美に“演出”された果てに訪れる末路のおぞましさ。金持ちの装飾品と化す女性達も含めて、“物体”と化した人間はやがて支配的構造によって“消耗品”にまで落とされる。それだけに主人公達が貴重な“自然食品”を口にする場面は、人間性を取り戻した束の間の瞬間のような何とも言えぬ悲壮に満ちている。

尤も1970年代の映画ということもあり、作中の批判性に関して流石に幾らか前時代的になっているのも否めない。公害やテクノロジーへの率直な警鐘というコンセプト自体に時代性を感じる部分もありつつ、ディストピア的未来としてのある程度の過剰さは風刺・警告として見れば納得できる。実際本作で描かれる荒廃と支配の構図は、文明が道を踏み外した“退廃的未来”のビジョンを確かに提示している。また話の筋書き自体は後年の『ブレードランナー』を思わせる近未来刑事モノだけど、肝心の捜査周りに関してはこの時代の作品に度々ありがちな起伏の乏しさを感じてしまう。そういう意味でも本作、サスペンス性よりもテーマやディティールにこそ味がある。

ソイレント・グリーンの正体もまぁ薄々分かるけど、それでも主人公が必死に告発するラストは何とも言えぬ絶望感に満ちている。それにしてもエンディングがよりによってあの映像と音楽なの、後味の嫌らしさが凄すぎる。映画終盤でヘストンが“世界の美しさ”に打ちのめされて思わず涙するところ、そんな世界が既に失われたことを示しているかのようで途方もない遣る瀬無さがある。
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