シズヲ

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のシズヲのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.8
『ゴジラ-1.0』や『ほかげ』に加えて本作も上映していた2023年11月、戦後日本映画ラッシュ過ぎる。いずれの作品も“あの戦争”を生き延びた人々の背負う呪いと業を見つめている。因習の根付く村という舞台設定はどうやら横溝正史の『八つ墓村』の影響を受けているらしく、旧き名家のお家騒動という構図からは『犬神家の一族』の雰囲気も漂う。そして本作は因習村とそこを牛耳る名家の姿に“戦時下/旧時代の日本”を投影し、“理不尽な戦争を生き延びた男”である水木と“家族を追い求める父親”であるゲゲ郎に未来を切り開かせているのが印象深い。

赤く染まった空や終盤に出てくる血桜など、要所要所で見られる非現実的なビジュアルは鮮烈でとても良い。“真夜中の村外れ、電灯に照らされてぽつんと座る水木……”などの画作りも好き。暴力描写もちゃんと容赦がないので印象に残るし、ホラー・サスペンスとして一定の緊迫感が保たれている。冒頭の血液銀行〜列車内や舞台となる田舎村の描写など、往年の作品めいたディテールを取り込みつつも現代アニメのテイストへと分かりやすく融和させた作中の雰囲気も悪くない。もうちょっとガッツリ昭和っぽくてもいいとは思うけどね。またゲゲ郎と水木のコンビもホームズとワトソンのようなある種のバディ的な魅力があって、仄暗さが漂う怪談にある種の前向きさを齎している。“旧時代の呪い”を断ち切る二人であることも含めて、このコンビの掛け合いや関係性は好きだった。そんで鬼太郎は子どもの時に見て以来だけど、下駄が飛び道具として強くてビビる。

実質的な主役は水木の方だし、ストーリーラインの主軸もあくまで因習村や龍賀一族の側にある。そのためタイトルにもなっている“鬼太郎誕生”という肝心のイベントの立ち位置が思ったより弱いのは気になってしまった。確かに物語のラストは鬼太郎の誕生へと収束していくが、それ自体は作中の事件と直接結びつく事柄ではないので山場としてのシナジーは薄い。また物語の合間でそそくさと挟み込まれる連続殺人の描写が顕著だけど、予定調和的にフラグを立たせていくような展開の仕方も引っ掛かる。形式的な話運びに見えるところがちょくちょくある。パッと見で役割が何となく読めてしまう沙代さん、話を畳みに行くかのようにあからさまな悪役ぶりを見せる黒幕など、登場人物達の何とも言えぬあざもさも感じる。あと中盤以降ちょっと狂骨に頼り過ぎ感がある。

そんなこんな言いつつもテーマやビジュアル自体は良いし、話としてもホラー・ミステリー・サスペンス・アクションなどの娯楽性を内包しつつ手堅く着地している。“哭倉村の鎮魂”と“鬼太郎誕生”という双方の要素で最終的に『ゲゲゲの鬼太郎』へと収束していくオチも味わいがある。
シズヲ

シズヲ