シズヲ

ハードボイルド・レシピのシズヲのレビュー・感想・評価

ハードボイルド・レシピ(2023年製作の映画)
3.8
ボディガード少女×悪党三姉妹×悪徳刑事によるクライムサスペンス。新宿〜渋谷という大都市の繁華街を舞台に、ひたすら“追って追われて”の追跡劇が繰り広げられる。他のレビューでも触れられているけど、“女子×アウトロー×B級映画”という題材は近年だと『ベイビーわるきゅーれ』をちょっと思い出す。伊澤彩織は本作に出演している藤丸千と友人同士とのことで、舞台挨拶にも呼ばれたらしいのがしみじみする。

俗っぽくマンガ的なユーモアをB級バイオレンス映画の世界観に移植していた『ベイビー〜』と比較して、本作はよりインディーズ的な素朴さに溢れている。新宿〜渋谷を背景に撮った自主制作映画の味わい。映画の筋書きを“追跡劇”という簡潔なシチュエーションに特化させることで、短めの尺や画面の低予算感を“作劇性のスタイル”へと昇華させているのが好感。そして内容の要である尾行パートをあくまでドライかつ抑制的に描き、かつ悪役側の視点を中心にして主人公側をサスペンスの対象としている構図も渋くて印象深い。冒頭で主人公側の殺しの手口が端的に描かれたことで、以後の追跡による駆け引きでも緊張感が保たれている。

登場人物に関しても内面の描写を削ぎ落とし、役者のビジュアルや作中の行動・言動によってキャラを立たせている端的さが良い。女優陣の出で立ちはみんな魅力的だし、悪徳刑事のヤクザな雰囲気も好き。また大都会の雑多な風景とそこに溶け込む登場人物を淡々とフレームに収めているおかげで、作中の虚構性とサスペンス性が適切に融和を果たしていたのが良い。二面性のあるボディガード女子も全員殺伐とした三姉妹もかなりマンガ的な造形なのに、作中の空気感と食い合うことなく画面にちゃんと溶け込んでいた。特に三姉妹はスピンオフか何かでまた見てみたいと思えるだけの存在感があった。

まず世界観を提示する必要があったのは分かるとはいえ、映画冒頭の筒井真理子は作中の雰囲気に対してちょっと饒舌すぎた感はあった。それとロケ地を絞るためか新宿と渋谷の間をジャンプし続けるようなシーンの構成も散見され、作中の位置関係が不明瞭だったのもちょっと気になった。そういった構成の影響もあってか風景の変化にも乏しかったので、もう少しばかりロケーションに工夫が欲しかった。また終盤のアクションにおけるスローモーションやカット割りなどの演出は、悪い意味でのケレン味が目立っていた印象。都会の風景に溶け込ませることで“美少女アウトロー”の存在を成立させていた追跡劇パートと比べて、どうしても胡散臭さの方が勝ってしまった。

とはいえ藤本ルナVS藤丸千のナイフによる激しい殺陣は見応えがあって良かったし(藤丸さんはこれがアクション初挑戦らしいのは凄い)、銀幕を背にした眉村ちあきの絵面もハッタリ感に溢れていた。思うところや拙さを感じる部分もちらほらあったとはいえ、画面から滲み出るインディーズ精神も相俟って中々憎めない味のある作品だった。限られた環境でポテンシャルを引き出そうとする意欲を感じられた。しかし眉村ちあきさん、映画のプロデュースもやっていたのはたまげる。
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