イトウモ

愛の記念にのイトウモのレビュー・感想・評価

愛の記念に(1983年製作の映画)
5.0
2023.7
オールタイムベスト1

5回くらい見ているが今回は筋書きについて。
ミュッセの「戯れに恋はすまじ」という芝居をシュザンヌが冒頭で演じることになる。貴族の男女がお互いに好意を持ちながら、なかなか行動に身を移せない女を焚きつけるために男の方が他の田舎娘とくっついて女からの行動をせがむという話。
これが元になって男女逆転の形式で進む。

いなくなった父が戻ってきたあとの、最終盤。父はシュザンヌに「お前は人を愛することができない。自分を愛してほしいだけだ」と言って突き放す。最初の彼氏、リュックを袖にした角で、彼に思い続けてほしいシュザンヌが他の男とむなしい関係を結び続けるという筋が見えてくる。
「いつも父のことが気になる。男のことも父が気にいるかどうかで考える」というファザコンのシュザンヌはたとえ結婚に踏み切ろうとも、父がそうしたように家庭を放り出してまた逃げてしまう。リュックとの関係から、他の男へ、他の男の連鎖から結婚へ、結婚から別の男との駆け落ちへ。

といっても脚本よりもやはり構図。画面の強度。
なぜこんなにも造形的に凶暴な画面が作れるのかわからない。社会性でも個性でも倫理でもなく。ありふれた感情を主観的にただいくつかの出口へ、出口へと気分を辿っていくための、それぞれの造形的に洗練された形式がここに紡がれている。

脚本としては恋愛パートに軸があるのに、アクションが家族パートであるというしくみもまたすごい。どこでタガを外すかというのがぎりぎり劇映画の枠組みが壊れないようになっている


2013.6.
モーリス・ピアラという人は肌が目を惹き付ける被写体であるということを熟知していて、顔、脚、裸みたいなものが唐突に飛び込んでくるときの生々しさ、いちいちすごい。演技についての刹那的魅力優先のロジックは絵画とか詩に近いと思う。