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泳ぐひとのadeamのレビュー・感想・評価

泳ぐひと(1968年製作の映画)
3.0
ニューシネマの時代に公開された不条理劇の怪作。
人の家の庭のプールを泳ぎ繋いで家まで帰ろうという子どものような意味不明のチャレンジを試みる男が、厳しい現実に直面する様を不必要なスローモーションや幻想的なカメラワークなど奇妙な演出で描いています。
「卒業」のプールを羊水に見立てた演出は有名ですが、今作は公開こそ後になったものの撮影は66年にされていたらしく、現実に向き合えずモラトリアムから抜け出せない男の隠れ蓑として水を扱う演出の先駆かもしれないと思いました。
冒頭の晴天下で誰もが優しく歓迎してくれる環境は子ども時代を思わせ、その後のバート・ランカスターの年齢に不釣り合いな若々しい肉体が躍動するパートは青春時代の衝動を想起させます。
孤独な少年がプールの水を失っているのも象徴的です。
もはや誰もプールに入らない段階では、水に飛び込む男は冷笑され、侮辱され、冷たくあしらわれ、しかしそれでも水中にいることを望む無邪気すぎる男は手厳しく拒絶されます。
市営プールの共有の水はルールの下に使用を許可されるものであって、男を庇護してくれるものではないので、豪雨となって容赦ない現実を叩きつけ、良くも悪くも無垢な心を破壊します。
クライマックスに向けてイマイチ盛り上がっていかないストーリーテリングの難は感じましたが、激動の時代のハリウッドで生まれた悪夢的な寓話として楽しめました。
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