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ラスト、コーションのTOTのレビュー・感想・評価

ラスト、コーション(2007年製作の映画)
4.6
女は選択し、男が残される。
激動の時代、ともに偽りの身分である男女の激しくて美しい極限状態の愛。

第二次世界大戦中の日本の傀儡政権下。
表向きは抗日組織の弾圧を任務とする特務機関員だが実は中国政府のスパイであるイー(トニー・レオン)と、イーの暗殺を目論む女スパイのワン(タン・ウェイ)。
ともに偽りの身分であるイーとワンの男女の駆け引きが、麻雀や車内での会話、ベッドシーンで丹念に描かれていく。

ベッドシーンの1回目はイー優位のレイプまがいのセックス。2回目はイーとワンの力関係はほぼ互角に。3回目でついに逆転するが、イーのワンへの眼差しも徐々に変化する。
特に日本料理店のシーンでは、イーの眼差しがそれまでの猜疑と怯え、怒りが入り混じったものから、ワンを愛おしむような縋るようなものに変わり、イーは涙すら流す。
この日本料理店でのトニー・レオンの演技は本当に胸に迫るものがある。

でも、何より普通の女子大生であったワンの選択と変容は痛ましくて美しい。
誘われるままスパイになり、何も決定権を持たず弱々しかった彼女が、最初の計画が失敗に終わった3年後、再びスパイになる時は自ら決定する。
それ以外選択肢が無いかのように。
イーと初めて肉体関係を持った日の微笑は、イーを自分に引き付けたという達成感のようでもあるし、こんな事態に自ら陥った自嘲にも見えた。
以降、イーとのセックスで限界ぎりぎりまで自分の体を開け放すワンは疲弊し混乱する。
愛すのか殺すのか。

最後、彼女が放ったあの言葉、あの選択。
当の本人すら呆然とするあの瞬間が、彼女が時代や因習、周囲からの期待、自分の欲望からも解放されて、独立した一人の女性として真に自由になった瞬間だと思った。
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