クシーくん

プラン9・フロム・アウター・スペースのクシーくんのレビュー・感想・評価

1.3
とにかく酷いことで有名な映画だが、正直「Z級の~」云々の話題に余り興味が湧かなかったのでスルーしていた。このほどやっと観終えた。
特に期待はしていなかったとはいえ…いや~確かにつまらない。何もかもが最低だ。

先ず脚本が酷い。「地球の静止する日」をベースに、雑なアイディアを無秩序に加えて脚色した感じだ。
ストーリーの稚拙さ、設定の矛盾は言及するまでもないが、それ以前に内容に直接関係のない意味のないセリフが多過ぎる。脚本を書いた本人は小粋な言い回しぐらいに思っているのだろうが、ただくどくてウザいだけだ。

エド・ウッドという人は書く時に最低限の知識を得るという下準備を怠るか、あるいはそうした考えにすら至らない人だったのだろう。それを象徴するのが、ラストの宇宙人の演説シーンだ。いくらSFとは言えあまりにもムチャクチャな科学的知見に基づく、同じシーンのセリフ内ですら言うことが二転三転する妄想電波のような演説を延々と聞かされ、それをただ黙って聞いている地球人メンバー。実にシュールだ。挙句の果てに「バーカ、バーカ!」と宇宙人に煽られ「お前のがバカだ!」と取っ組み合い。それまでの展開も十分に酷かったが流石にここに至って眩暈がしそうだった。

次に役者のレベルが低い。いちいち挙げればきりがないが全員なべて酷い。
唯一まともな役者と言われるベラ・ルゴシだが台詞が皆無な上に登場シーンが余りに少なくこれで上手いと判断するのは正直微妙な所。そもそも「宇宙人の力で蘇る死者」がコンセプトでルゴシ主演が前提だったのだろうが、クランクインから2週間もしない内にルゴシが死去した時点で本来であれば中止か、さもなくば全く別のストーリーを作るべきだったのだ。下手にルゴシの映像を使ったために代役を登場させる始末(毎回顔を隠して出てくるのだが、隠していても別人なのがバレバレである)。ルゴシがフレームアウトした後に叫び声と車のブレーキ音でルゴシが事故死したことを表現しているのだが、まるでモンティパイソンのスケッチだ。映画全体がシリアスなのにスベッたギャグにしか見えない、最低最悪の死亡シーンといえよう。

クリズウェルの大言壮語で中身のないナレーションがOPとEDに入っているが、これも全カットで構わない。監督がこのインチキ霊能師にどんな弱みを握られていたか(或いは友情関係からか)知らないが、全く無駄な存在だ。EDの終盤、安っぽい音楽がかかる〆の部分だがカチャッという音と共に音楽が流れだす。録音テープでもセットした音だろうか?

編集もぶつ切りで、話の進行が掴みにくい。というか、恐らく監督には編集という概念が頭にないのだろう。また脚本もそうだがエド・ウッドは万事曖昧に回りくどくすることがカッコ良いと思っているフシがあるようだ。ぼんやりした印象しか伝わらないし、単純につまらない。

セットが粗末。安物の灰皿にしか見えない円盤を葉巻型と言ってしまうなど、凡ミスが随所に目立つ。カメラはなかなか動かず、固定されたまま。外のシーンを室内で撮っている、或いはその逆が丸わかり。同じショットを余りにも使いまわし過ぎである。酷評は他にも挙げればいくらも出そうだがこのぐらいにしておこう。

ウッドは恐らく抽象的な夢や指向を思い描いて、それを原動力に行動する力は優れているが、具現化する能力に乏しい人だったのだ。だから本作は回りくどく抽象的で無駄に複雑に見えるがその実ただの虚仮威し、彼の好きなエッセンスを詰めただけの空っぽの映画になってしまった。

しかし情熱と行動力は確かに本物である。散々こき下ろした後で言うのもアレだが口だけなら何とでも言える。かく言う私も好き放題言うだけの口説の徒に過ぎない。彼には行動力があった。そして映画は出来上がり世に放たれた。その度胸と心意気だけは買いたい。
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