このレビューはネタバレを含みます
・ユダヤ人への蛮行という「知った話」が目の前に広がるとこんなにも恐ろしいことなのだと突き付けられ茫然とした。恐ろしさに涙さえ出ない。
直接加害するだけでない、目をつむることも罪なのだ。しかしそこで勇気を出し、一人でも救えたものが英雄たるのだ。
・ゲットー解体が初めの山だった。辛くて一時停止せざるを得なかった。
それまで比較的に静かに進んでいたストーリーから一転、銃声と怒号と血、大きく画面も揺れ暴力的に。夜が更けても発砲でランダムに光る窓が美しく恐ろしい。
・Ralph Fiennes演じるアーモンは腹の出た中年だが、シンドラーと話している時は無邪気に笑い、特にPowerの話をしている時は息子のようにさえ見える。「早くけりをつけたい」「彼も戦時下でなければ普通の男だ」もちろんどんな理由でも許されざる行為だが、公平なスピルバーグの目線を感じる。ドイツ兵でも狂ってしまうのだ、やるせない。
・はじめは尊大で功利的に見えたシンドラー。「安いからユダヤ人を雇おう」というのもあながち建前ではなかったはず。ずっと目を瞑っていた。最後の最後に、もう1人でも…となるのは人類全体の反省と重なる。タルムードの言葉が優しい。
・モノクロによって血の匂いが抑えられ、表情が印象に残る文学的な作品になっていた。特に収容所の投光器に照らされる不安な目や影を落とした表情が強調されている。ちらちらと降る雪かと思ったら焼却の灰、などは恐ろしい演出。
・恐ろしい画はたくさんあった。シャワー室。『ガス室のうわさ』という伏線もあり、裸にされ、密閉された部屋の小さな窓越しに、肩を寄せ合い、端から順に始まるシャワー。死を覚悟したが水と分かってごくごくと飲む。ダイレクトな虐殺は見せなくても、気の緩まらないシーケンス。
・子供たちがしっかりと戦争の中にいた。子供でも殺されるし、子供同士で隠れ場所を取り合ったり逆にユダヤ人を罵倒する子も。
・解放されたとて帰る地がなく、また流浪を続けるユダヤ人。カラーに変わって現代への問題提起にも続ける、ドキュメンタリー的なラストは敬意をもって観た。また全編にわたってリスト=名前が強調され、個人として被害者を見る姿勢が強調されていだと思った。
・シーンの切り替えがテクニカルで、ろうそくの煙から汽車の煙など何かしらつながりがあって美しい。