もりいゆうた

カーズのもりいゆうたのレビュー・感想・評価

カーズ(2006年製作の映画)
4.5
泣いた、泣いたよ。あまりにも完璧な作品で驚いた。見たことあったのに!さすがジョンラセターの(自伝的)初期作品なだけある!!!

まず冒頭10分のレースで心を掴まれた。オープニングのワクワク感半端じゃない!伝説のレーサーでありマックィーンの師匠的存在であるドック・ハドソンもいい味出してる。『カーズ』という作品の深みはこのキャラクターがいるからこそ生まれていると思う。

そして、最後のレースでいろんな伏線をいろいろ回収していきながら、最後は自己犠牲。最高すぎる。

サリー「あそこまで競争しない?」
マック「ドライブがしたいな」
サリー「うーん、やだ」(走り去る)

あんなに競争が全てじゃないと気付いたばっかりの主人公にサリーが競争をふっかけるシーン。ここでまさかのテーマの裏切り。このラストこじゃれ過ぎてませんか!?

それにしてもなんで日本のディズニーランドにはカーズの乗り物がないんだ!早く作ってほしい!!!

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僕にとってこの『カーズ』はとっても思い出深い作品で。というのも大学生の頃、自分の人生を180度変えてくれたイベントがあって、それに自分が出演する出囃子で、このカーズのオープニングのBGMを使っていたからなのです。

そのときはカーズを見たことなくて、ほんとBGMだけ聞いてこれがぴったりだなぁと思って決めたんだけど、あとになってあぁこれカーズのオープニング曲だったんだって知って。

しかも!見てさらに驚いたことに映画のテーマや内容!

この作品は、

「競争が全ての主人公が、競争よりも大切なものに気付く」

というテーマで、いろんなハプニングや人と関わっていくことで主人公が、

「結果や効率を追い求めるのではなく、過程を楽しむようになる」

っていう話なんだけど、これがもう大学生の頃の僕そのもので。

大学生の頃、ずっっっとせかせかして生き急いでいたんですよ。

そんな中、いろんなことがあって、やっと大学卒業間際で気付けた大事なことがこの『カーズ』という作品の2時間におさめられているわけです。

急がば回れって言葉があるけど「遠回りこそ近道なのだ!」って。

だからこそこの作品は本当に自分自身の物語のように感じていて、思い入れが半端じゃないんです。

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最近『えんとつ町のプペル』を見ました。映像は素晴らしかったのですが、内容は作者が透けて見えてしまって個人的にそこまで評価は高くなく。

物語が自伝的であることは決して悪いわけではないです。

『カーズ』が『プペル』と違うのはそれがあまりにもストーリーにうまく溶け込んでいるということでした。

作者が透けて見えるとなぜいけないのか?

そのキャラクターが本物のように見えなくなる可能性があるからです。

物語はいかにうまくウソをついてお客さんをその世界に引き込むかが全てであって、その「リアリティ」を失うんだとしたら、もうそれは作品として成立していないことになります。

例えば、『プペル』の主人公であるルビッチは友達が一人もいない(という設定)なんですが、どう考えても友達が一人もいないように見えないんですよ。しっかり人とコミュニケーションとれて、そこそこ明るいですし。

友達が一人もいないってそうとうじゃないですか。本来ならもっとルビッチを悪く(または暗く引っ込み事案などに)描かなければなりません。そこそこやばいやつじゃないと友達が一人もいないなんてありえません。

でも普通にいいやつなんですよ。

これはやはり作者がそうであったからだと思います。

ただ、そうなるとここで「ウソ」が発生していることになり、ウソは読者を冷めさせるのでこの物語からリアリティが失われ、作品として成立しなくなってしまうのです。そのため僕は感情移入することができませんでした。


例えば、『恋愛小説家』というゴールデングローブ賞も受賞した名作映画を見てほしいのですが、

この主人公は本当に嫌なやつなんです。

人嫌い&人の気持ちがわからない偏屈で嫌われ者の頑固くそじじいで、友達になりたいと思える人は一人もいないと思います。

しかしこれが本当にすごいことなのですが、不愉快で見ていてムカムカしてくる強迫神経症の主人公を、最後には気づいたら好きになってしまっていたのです。

そんなやつに感情移入させることこそが脚本家としての腕の見せ所であり、キャラクターを魅力的に見せる技巧がたくさんたくさん詰まったお手本のような脚本が本当に素晴らしい!

『プペル』も『カーズ』も両方自伝的な作品ですが、そのリアリティが『カーズ』にはあったと僕は感じ、思わず涙してしまったのでした。

しっかりと御祓をして帰ってきた、2022年公開予定のジョンラセター復帰作が楽しみで仕方がないです。