シゲーニョ

アビス/完全版のシゲーニョのレビュー・感想・評価

アビス/完全版(1993年製作の映画)
4.5
完全版ヴァージョンを観て、改めてグッときた1本。

ピンチ、その状況下で感情の齟齬をきたしながらも、命がけで互いを守ろうとするバドとリンジーの恋愛劇が、「完全版(93年)」でより深みをもたらされたと思う。

別居したのに未だ結婚指輪を外せないバドが、とあることで指輪をトイレに捨てるが、思い返してブルーレットいっぱいの水たまりの中、指輪を必死に探すシーン。

仮死状態になったリンジーを、バドが必死に呼びかけながら蘇生しようとする場面での台詞。
「頼む、息をしてくれ!君は(世間や会社の常識と)いつも闘ってきたんだろ!負けるな!闘うんだよ!」。

そしてクライマックス。起爆装置を解除するために、死を決して底知れぬ深淵に向かうバドが、リンジーに送ったキーパットからのメッセージ。
「片道切符はわかっていたさ。でも誰かがやらなければ・・・愛してるよ、奥さん」。

上述したシーンはオリジナル版にもあるが、完全版で加わったエピソードと合わせ絡まることによって、バドとリンジーの互いへの思いが、より強く印象に残るようになっている。

多く語られてきたことだが、キャメロンの初期作の主人公は「戦う女性」=「強く、たくましく成長する女性」=「アクシデントを乗り越えて自立するヒロイン」である。

しかし本作の主人公は二人の男女。

エリートでインテリでちょい自我肥大な妻と、腕は一級品で部下からの信頼も厚いリーダーながら女房にだけは弱いブルーカラーの夫というのが、ユニークで興味深い。

夫・バドを「強い女性に憧れるキャメロン自身の投影」と見てしまうのは、あながち、穿ち過ぎと言い切れないだろう。
事実、脚本執筆当時のキャメロンの妻は、本作のプロデューサー、ゲイル・アン・ハードであり、「この映画は絶対に作るべきだ!」と日夜、旦那のケツを叩き、励まし続けたと聞く・・・。


最後に・・・

この頃のキャメロンは、心に突き刺す作品を連発していたと思う。

まぁ、本作の「夫婦が命がけで助け合うことで絆を取り戻す」展開は、のちの「トゥルーライズ(94年)」。主人公が「愛する人を守るために自らすすんで死地に赴く」というクライマックスは、のちの「タイタニック(97年)」にも共通するのだが・・・。