高田ハン

羊たちの沈黙の高田ハンのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
5.0
触れては行けないのに魅力を感じる。

ハンニバル・レクター、彼は聡明で、博識で、知的で、紳士で、それでいて冷酷だ。かれはその気になれば直接手を下さずとも意図した人間の命を屠ることができる。それは類い稀ない洞察力と、それを反論の余地のなく相手に思い知らせるコミュニケーション能力。

対してクラリスは自身の美貌を利用すれば簡単にどんなものでも手に入れられそうであるのにそれに甘えない努力家であり、純粋さを残す瑞々しい研修生。

レクターとクラリスの対峙のシーンはそこに何の説明がなくとも圧倒的な力量差があることを思い知るのに十分な演出だった。そこかしこに感じる異常さ、それを上塗りしていくような聡明さに対して、クラリスの純粋な心が蹂躙されていく様は圧巻。

それでも事件の手がかりを得るにはレクターから情報を聞き出さなくてはならない。クラリスは彼と話をするたびに心の奥にしまっていた大切な何かを少しずつ、掠め取られていく。

肉体を直接傷つけられるよりももっと深くの、羊の鳴き声が鳴り止まないその夜に、レクターはクラリスの一番柔らかい場所に潜り込む。

手のひらで踊らされているのは分かっているのにそれでも逃げられない、レクターの魅力はまさに魔物だった
高田ハン

高田ハン