私はディズニー作品に、その長い歴史から敬意と嫌悪感を同時に持ち合わせている。
3DCGアニメの原体験は「塔の上のラプンツェル」だし、近年では「アナと雪の女王」シリーズや実写版「アラジン」は好きだ。
遡れば、アニメ版「美女と野獣」の絵の緻密さに驚いたりもしている。
何より大好きな手塚治虫が大好きだったディズニーなので、彼を形作った物としてのディズニー・アニメーションは有難いと思う。一方でその手塚治虫作品をもろパクリしてヒット作をつくる等、何様だよ、とも思っている。
第二次世界大戦中はプロパガンダをつくっていた。ディズニー作品と向き合う時、その楽しい話のバックグラウンドに、映画史の陰陽の両面を強く意識せずにはいられない。
そんなディズニー作品、観ている間は楽しいのだが、正直大して何も残らない。良くも悪くもウェルメイドでつるんとしていて引っ掛かりがないのだ。よく出来ているな、と思って終わってしまう。
「メリー・ポピンズ」は名作と謳われているし、いずれ観なければ、と思っていた。
然し蓋を開けてみて驚いた。ろくでもない親たちに、大袈裟で記号臭い芝居、可愛くない子供たち。
どう見れば正解なのか解らない内に、気がつくと、実写とアニメが同居するファンタジー世界に誘われている。
ジュリー・アンドリュースが本当に可愛い。歌も踊りも最高。
ディック・ヴァン・ダイクの芸の細かさ、上手さには本当に驚く。「雨に唄えば」を見る度に、ドナルド・オコナーに思う事でもあるが、現代にこんな役者はいない。素晴らしい。
笑うと宙に浮くって何なの?
カメラのフィルターとか編集の外連味がとても上手く機能している。スピルバーグの「ウェスト・サイド・ストーリー」にも繋がる。
本作そのものも、メリー・ポピンズその人も、常識が通じない。それが段々と心地良くなり、楽しくなって来る。センス・オブ・ワンダーの塊だ。
屋上からの一連のダンスシークエンス最高。「ウェスト・サイド物語」も大きな影響を与えているが、私の唱えている「マイケル・ジャクソン、ディズニーのキャラクター説」がまた補強された。
子供には難しいし、大人には子供騙しに見える。ターゲットは差し当たり、子供を連れて来た親だろう。
とても不思議な作品だった。名作と言うよりは、歴史的な珍作だ。