YohTabata田幡庸

ライフ・アクアティックのYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

ライフ・アクアティック(2004年製作の映画)
4.6
私はウェス・アンダーソン作品が格別好きな訳ではない。だが彼の近作は、ひとりの映画好きとして観て来ている。好き嫌いは置いておいても、観ていなかったらモグリだと思う。それくらい、21世紀の映画にとって重要な監督である事は間違いない。

然し、「グランド・ブダペスト・ホテル」から入った私としては、彼の作品をどう評価して良いのか毎度迷って来ていた。何しろ、好きな人にはブッ刺さる系の可愛い砂糖菓子みたいな見た目が印象的過ぎるから。そして、ウェス作品を観る時に求める物がその見た目である事も多い。そして彼の作品は以上に情報量が多い。
なので良くも悪くもストーリーやテーマの話をする以前の状況を語って、「今回もウェスィー(ウェス・アンダーソンのルック)だね」で終わってしまう。それは、彼の作品を好きな人も嫌いな人もそうだろう。少なくとも私はそうだった。

だが、ここ数ヶ月、彼の初期作を観る機会が多くあった。それに伴い、可愛く、甘くコーティングされた見た目の奥に、何となく彼の一貫したテーマが見えて来た。それは、「不能な家族」「大人になりきれない、人間として褒められない中年男性」「父親と息子」「擬似家族」「動物だから助けると言う甘えへのアンチ」「人間の傲慢さ」等だろう。

ルックは勿論いつも通りの急激なパンや、ミニチュア感なのだが、本作は他のウェス作品群と比べて得意な点が多い気がする。
彼の作品で、ここまで露骨にCGIと分かる様なCGIの使い方をしている物を、今まで見た事がない。そしてクライマックスに分かりやすくエモーショナルに盛り上げる作品も珍しい。

ウェス作品には、日常の中に当たり前に暴力がある。北野武作品と似ている。全然違うけど。
ウェス作品では、犬は置いていかれる、又は死ぬ。
突然現れた、息子を名乗る男に「名前をつけてやる」と言う、スピッツみたいな支配欲の誇示。

全編通してかかるデヴィッド・ボウイは、やり方を間違えればダサくなりかねない。何しろ使い古されているから。特に’Life On Mars?’は。だが、見事に効果的に上手く機能していた。

今まで掴み切れていなかったウェス・アンダーソンの怖さ、暴力性、テーマみたいな物を私なりに理解した、個人的に記念すべきとなった。

話自体はウェス作品史上最高に、驚く程シリアスで悲しいが、個人的に1番好きな作品になった。
YohTabata田幡庸

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