くりふ

恍惚のくりふのレビュー・感想・評価

恍惚(2003年製作の映画)
3.5
【奥さまの欲望、行方不明】

公開時にベアールさん目当てでみました。リメイク『クロエ』に合わせ再見。夫を疑う妻が、雇った娼婦を近づけて、夫の浮気心を試す厭らしいお話(笑)。

オリジナルのこちらは静かな体裁。その抑制からにじむ面白さはあるものの、総体的にはもどかしさが残ります。あんまり乱れてくんないんだもん(笑)。

色々感ずる所あるのですが、なんかまとまりません…。コドモだなあ自分。

まずは「ポーカーフェイス映画」ですね、これ。主人公アルダン&ドパルデュー夫妻が、すれ違ってきた積み重ねからか、そんな顔で対話するばかりになってしまう、どうにもならない小さな残酷。

そして「娼婦探偵」として雇われ、アルダン心に割り込むベアールが曲者。恥部の名も飛び散る生々しい「業務報告」を、顔色変えずに淡々とこなす。で、それをじっと耐え聞くアルダンさんの表情が、映画の芯になってます。

夫婦間の性について語られますが、語りだけで実際の有様は見えてきません。これが本作の矜持ですが、限界だとも感じました。性の映画なのに、顔映画。性欲の昂ぶりが語られて、しかしその行き場がどうなるのかわからない。これは、心と身体感覚の乖離についても語っているように思えてきます。

リメイクではこのあたり、直球でやってますね。ジュリアンさんの人妻は、妄想から湧いてしまったものを、すぐ自分の体にフィードバックさせてる。この方がまあ、安堵はできるんですが。心と体、バランス取れてるようで。

娼婦探偵ベアールと共犯するように、性の妄念を静かに沸かすアルダンさん。ところが彼女は、その大半をどうも、脳内処理で賄おうとするようです。これを「さすが大人の女」とみるか、「枯れてないか?」と心配すべきか(笑)。

まあ、最後までには色々あるわけですが、総体的には性の歓びを讃えるより、性欲を解体する方へと、向かうように思えます。加齢と共にそうなった方が、やっぱり落ち着くんだろうか?

安易に「解決」は見せない本作。あるのは、とある夫婦の「歩き方」の提示まで。

…他に幾つも切り口が見える作品ですが、やっぱり巧く書けないので、このへんにしときます。

あ、音楽は、今では懐かしい感じもするマイケル・ナイマンですが、やっぱりいいです、直球に情緒的で。久々に彼のサントラ欲しくなりました。

<2011.11.7記>
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