半兵衛

審判の半兵衛のレビュー・感想・評価

審判(1963年製作の映画)
3.5
カフカ的な不条理世界を独特の映像センスで表現するウェルズの演出手腕の素晴らしさ、会社での主人公と同僚たちの働く場所、大群衆のなかを掻き分けて通る主人公、親戚や弁護士たちと会話するときなど距離で主人公のKが社会から離れていくのを映像で伝えていくのが圧巻。

でもカフカの世界を忠実に表現しようとするあまり、物語をそのまま映像化してしまい映画として何かが物足りなくなってしまった印象を受けるし物語のわけのわからなさが謎めいてなくて単なる迫害にしかなっておらず肝心の不条理性が薄まっているので映画が眠気を誘うような語り口になっているのが気になってしまう。そういう映画に大切な物語への工夫が足りないという意味では映画監督の作品というより、映像クリエイターとしての作品という印象を受ける。

ロミー・シュナイダーをはじめジャンヌ・モロー、エルザ・マルティネリやマドレーヌ・ロバンソン、マイケル・ロンズデールといった個性的な役者たちによる演技も見物。しかし当時アイドルから本格的女優を目指していたとはいえ、ロミーにAVの痴女みたいな役を演じさせるところにウェルズの性癖が垣間見えて興味深い。

それにしても主役にアンソニー・パーキンスを起用し、『サイコ』で観客を怖がらせる側だった彼によくわからない罪で起訴され身も心も追い詰められていく役柄を演じさせたのはヒッチコックへの対抗心だったのだろうか。

不意にアンソニーに膝カックンするロミーに笑う。
半兵衛

半兵衛