半兵衛

悪い男の半兵衛のレビュー・感想・評価

悪い男(2001年製作の映画)
3.7
今から20年前鑑賞したときそのぶっ飛んだ作品内容にある意味衝撃を受けたが、改めて見直してもやっぱりイカれてる映画であることを再確認。

ヤクザの主人公が惚れた女性に罠をかけ娼婦にしてしまうというのはたまにあるパターンではあるが、そんな主人公は彼女に手も触れようともせずひたすら彼女の仕事部屋に仕掛けてある覗き部屋(向こうからは彼女を観察できるが、彼女からは見ることが出来ない)でひたすら彼女が抱かれているのをただ見ているという厄介すぎる純愛を抱いているのがポイント。彼女を自分と同じ世界にいたいけれど、ヤクザである自分が彼女と付き合えるわけがないという相反する矛盾した感情が引き起こすこの行為は通常では理解不能だけれど、実はメロドラマでの好きな女を堕落させる敵役とそんな好きな彼女に何も出来ない無力な二枚目という役割には忠実だったりする。でもそれを一人で担っているのがおかしいし何よりそんな人間が彼女を支配して脱出しようものならすぐに捕獲する存在なのが見る人の脳を混乱させる原因になってしまっているのも事実。

そんな男と女では当然普通の恋や愛が芽生えるはずもなく、ひたすら男はぎこちない愛を女に与え女は男を憎悪していく。でもそんなすれ違いのなかで女が憎悪を捨てるといつしか歪な愛の形となってメロドラマとして進行していくのに唖然、ラストは常人には理解不能(でも何となく言いたいことは伝わる)な域へ。でもギヨン監督の作品ではまだハッピーエンドになるという。

ただ同時に不可思議なメロドラマになる後半にバラバラになっていた顔のない写真、ヒロインが重要な場面で着る服、海の風景など時系列が乱れた演出や不可解な演出な数々が随所で登場してきてどこかある人間の理想の夢を見ている気分に。それが顕著なのは一緒に公園のベンチに座っていた主人公とヒロインで、突然主人公が車の中に入りヒロインが一人だけずっと座っているまるで男が幻想のように強調するシーン。

そんな変な作品ではあるが、人物の心情を代弁する風景の映像のセンスが光っているのが妙に心地よくて抵抗なく鑑賞してしまう。ラストのどこにでもありそうな普通の海を夢の風景にしてしまう手腕は凄いよ。

激しいベッドシーンやらハードな撮影で疲弊したかのようなヒロインの顔立ちが『私を棄てた女』の小林トシ子並に凄絶、でもそれが異様な男の愛を理解して付き合うヒロインの状況に合っていた。

終盤の演出や主人公のバイオレンスっぷりは北野武作品を彷彿とさせるけれど、実は作品自体は『天使のはらわた 赤い淫画』の方が近いというのも面白い。
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