えいがドゥロヴァウ

エルミタージュ幻想のえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)
3.3
アフレコ…
アフレコ自体は何ら珍しいものではありませんが
リアルタイム性が肝である全編ワンカットで後付け感まるだしの音声は冷めますね
昔のヨーロッパ映画でもよく感じることですが
何故こんなにもリップシンクが雑なのでしょうか?
他のことは超神経質なのに

『ヴィクトリア』を観てから全編ワンカットつながりで本作を鑑賞しました
あえて比較するとすれば
『ヴィクトリア』は屋外にて偶発性を取り入れた柔軟な撮影スタイルを採用したのに対し
本作は室内で非常に厳格なコントロールのもとで撮影されたという印象
『ヴィクトリア』の尺が結果的にその尺になったのだとしたら
本作は当初からその尺になるように撮られたような
(実際のところは分からないのであくまでも所感です)
カメラは本作のような時空を超越した存在の目線という設定のほうが
何だかしっくりときますね
ギャスパー・ノエの『エンター・ザ・ボイド』もそちら寄りですね(あちらは擬似ワンカットです)

ワンカットの映画というのはフィルム撮影では不可能なので
2002年の公開当時に、デジタルの技術革新によってこのようなことも可能になったのだ、ということを示した作品だったのでしょう

これは美術やエルミタージュ美術館(=王朝時代の宮殿)の内装、エキストラのコスチュームを楽しめないとシンドい
僕は西洋的な宮殿やら貴族やらの「絢爛さ」が苦手なので
まぁ観ているのがシンドかったです
そもそもDVDを買っておいて2年ほど放置していたのですが
その理由は
ワンカット撮影に興味を持ったはいいけれど
この苦手意識が妨げになっていたからに他ならぬのでして…
そしてロシア・ロマノフ王朝のことを知らないと
チンプンカンプンです

本作は主人公(声はソクーロフ監督自身)の主観映像の体裁で撮影されており
彼は幽霊のような存在として様々な時代を行き来しながら歴史的な出来事を傍観します
彼は冒頭でフランス人の外交官と出会い行動を共にするのですが
それでこの外交官がロシアの美術にケチをつけるのですね
曰く、ロシアの美術はヨーロッパの真似事で、その悪癖までも真似ている、と
ナポレオンは敵だと言われながらも
彼が持ち込んだ様式は取り入れていたり
プーシキンの詩はまぁまぁだった、だとか
ほとんど言われたい放題
ロシア文化のこじらせ具合を垣間見させられたような心境ですが
この外交官の「毒」によって
ソクーロフが自国の歴史と文化を誇示するために本作を撮ったのではないことが明白に受け取られます
しかし、後半に進むにつれ外交官を感心させる作品が登場していき
終盤の舞踏会での彼はまさに魅了されたような深い満足感を表情に浮かべます
国家のアイデンティティーは決して他国の評価に依拠するべきものではないですが
ヨーロッパ人の目という呪縛の大きさを本作は示しているように思えました
その呪縛から解き放たれた先の未来
その可能性を示唆して
幽玄な雰囲気をたたえた海の映像のラストは
それまでのどの美術作品よりも強い印象を残しました