永遠の人々
自分が映画好きであることに感謝する。
素晴らしい映画に出会えた時にこそそう感じてしまいます。
久々に身震いしてしまった1本。
歴史の迷路と化したエルミタージュ美術館を漂泊する二人の男。
彼らが辿った軌跡を全編長回しという驚異的な映像で描いた意欲作。
ステディカム1つで撮られた、90分一発勝負という正真正銘の長回し映像。
僕、長回しには目がないんです。
本当に凄いものを見させてもらいました。
冒頭。
二人の男が時空を超えてエルミタージュに迷い混む所から話が始まります。
一人は監督アレクサンドル・ソクーロフ本人。
そしてもう一人が実在したフランス人外交官キュスティーヌ伯爵です。
彼ら二人が広大な敷地面積を誇るエルミタージュ美術館の内部を散策し、
館内の美術品や調度品などにふれながら、過去と現在とが入り混ざった歴史の断片を目にしていきます。
そうして、歴史に美術や人生などたわいもなく語りあう。
この構成がとても面白くユニークでした。
風格漂うロシア皇帝の人間味。
豪華絢爛な晩餐会の熱気。
戦争がもたらした陰鬱さ。
人々が美と対峙する様。
彼らが目撃する叙情に満ちたシーンの数々が、エルミタージュに広がる各部屋各場所に散りばめられ、それらが緩急あるカメラワークで数珠繋ぎにされていく。
連続した時間感覚とは対照的な、空間的断続。
それはまるで、長回しと空間演出の相乗効果によって後戻りできない時間の儚さを表現しているようでした。
その儚さを人間の歴史、人の人生と重ねてみる。
刹那的な人の行為に対して少なからず愁いを感じてはしまうけれど、
万感の拍手で讃えられたオーケストラの演奏のような、
華やかな力強さだって人は内包している。
「生きよう。生き続けよう。」
ただひたすらの前進を宿命付けられた人間の決意。
「私は残る。この先に何があるというのだ。」
連綿と続く人類の歴史と、
その中に埋没する人の一生とが、
フラクタルな関係を結び、
それと同時に相対する。
舞踏会を後にする人々の流れはまさに、その関係性を暗示するかのようでした。
長回しによって時間の連続性を示すだけでなく、後戻りできないという儚さを表現する。
今まで体験したことのない本当に感慨深い作品。
いつか僕もエルミタージュを彷徨いたいなぁ。