さわら

恐怖分子のさわらのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
5.0
LINE、Facebookが蔓延る“言葉飽和時代”において、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンを代表する、台湾ニューシネマの巨匠たちの言葉足らずな不親切さよ!彼らは言葉を信頼していないかのように、それをどんどん排除する。もっと語れば飽きないし楽しいし眠くならないはずなのに、語らずして表情・所作、そして“風”の描写の積み重ねで鑑賞者に感じさせようと試みる(鑑賞者ありきの映画だ)。多分にグレー部分を残す。それがいいじゃない、文学的じゃないと思った。
無機的な楼閣のような部屋に閉じ込められた、医者の妻である小説家。その生活に風穴を開けた一本のいたずら電話。その後の彼女の行動はすごくわがままのように見えるのだけど、でもそれは結局ひとつの小さなスイッチであって、なんでも良かったのだと思う(キッカケが欲しかっただけ)。逆に、大したことのない一つのボタンのかけ違いで引き起こされる悲劇の連鎖が非常に気持ち悪く、それが終始一貫してて最悪だと思った(褒め言葉)。
モザイクのように散らばる、人々のちょっとした“悪意”が、次第に周りに伝染し不穏な空気感をつくりだす。乾き切っていて、低体温で無生物な感じがすごく好き。結局、日常生活のどこにも“恐怖分子”は飛散しており、それに感染するかしないかはその人次第であり、本作はそれへの免疫低下した人々を過度にデフォルメして描かれたお話だった。誰にでも起こりうるかもしれないと思うと、なんとも極普遍的なお話のようにも感じた。
好きなシーンは多々あるのだけど、個人的には冒頭。カーテンからにょきっと出て、ギラリと光る銃口。かっこいいなと思った。ポストカードが欲しくなった。それにしても、「おれ、とうとう課長に昇進したぜ。へへへ」のシーンはヤバ過ぎて怖すぎて、どんなホラーよりも震え上がり、すっげー小便行きたくなったのはここだけの話。でもイメフォのトイレ、狭くてすごく混むよね。不便(なんの話?)。

@イメージフォーラム