くりふ

ラスト・シューティストのくりふのレビュー・感想・評価

ラスト・シューティスト(1976年製作の映画)
3.5
【血まみれの矜持】


ノスタルジックに響く、エルマー・バーンスタインの音楽に乗り、寒々しい山を背に、ゆったり現れる老ガンマン。そこに彼の、若き日の活躍が幾つもインサートされるが…カッコ悪い。むしろ醜悪。殺しの瞬間を集めた、まるでスナッフフィルムのよう。

1901年1月、ネバダ州でのおはなし。世紀が変わり、ガンマンの時代は終わってしまったことが、テンポ良いのに寂寥感漂うイントロから、如実に伝わります。

ジョン・ウェインの遺作に相応しい、静かな佳作。ドン・シーゲルの演出には粗雑さもありますが、私は好きですね。

ジョン・ウェインから余計なオーラが消えていて、ただのオジサンだから入り易い、ことも大きいんですが。唯一、子供の頃ロードショーでみたウェイン作品だったりします。

ここでの彼は、実に表情豊かです。未見の作品も多くありますが、私は本作での、人間くさい彼がいちばん好きです。

作りは、ウェイン伝説にかなりおんぶしていますね。主人公J・B・ブックスが、どれほど凄いガンマンだったのかは作中からはあまり伝わりません。ウェインだから凄い、が大前提。

かつて西部開拓の一端を担った筈が、その銃の腕によって逆に、血の匂いが新世紀では邪魔になる。だから行き場を失くしてゆく。

悪役は紋切型で、こちらも時代に取り残されたような存在感。まるでウェイン伝説を閉じるため用意された、生贄のようです。

彼らとの対決はかなり強引な流れなので、やっぱりこれは、物語というより儀式に近いと思う。そこに次世代の映画を担う、ロン・ハワードが加わることになり、かつての盟友ジミーさんが、それを見送る、というのが今み直すと、それなり意味深じゃないかと。

そして「野蛮」な殺し合いは、誰にも見られぬよう行われ、封印される。「水道に電話に電気、来年は鉄道も電化する」新世紀、なんですね…。

アメリカ西部の顔である保安官も、変貌していて生々しかった。ブックスに「早い話が君にさっさと死んでほしい」と堂々とほざく。かつてウェインが演じた保安官なら、決して言わなかった筈のこと。ここは、彼の死因を思うと、アイロニーを感じてしまいます。

広瀬隆さんの「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」に書かれたことを、鵜呑みにする気もないのですが、核実験の地でロケを行ったことが、発ガンの原因だったとすれば、彼はアメリカに殺されたとも言えます。そんな視点を加えた時、この保安官は何重にも、醜悪に映ります。

作中の憩いは、枯れた魅力のローレン・バコールさん。揺らぎつつハードボイルドを装う、大人の未亡人で惹かれます。最後で一瞬、恋する乙女のような顔を見せるのが凄くいいんですよね。

<2013.4.10記>
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