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レナードの朝のmanamiのレビュー・感想・評価

レナードの朝(1990年製作の映画)
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「裏彩色」というのがある。うらざいしき。「絵を描くための絹の裏側に顔料や金箔をほどこすことで、表からの彩色に微妙な違いを与える技法」だそう。つまり裏面にも色を塗って、表面の絵に塗った色に濃淡をつけたり、明るく発色させたり、様々な効果を生み出せるって技らしい。
この作品を観ながら、いつかどこかで読んだそんな知識のことを思い出していた。
私達は人生の様々な局面において、忘れてしまったり、気付けなかったり、見逃してしまったりすることが、往々にしてある。それでも自らに関わることを覚えていたいし、認識したいし、自身の人生を主体的に歩みたいと考える人がほとんどだろう。それらが奪われることを不幸だとも思うだろう。
ただし生きていく上では、例えば忘れることがプラスに働く場合もあるということも、私達は実体験を踏まえてよく知っている。辛い記憶が、時の流れとともに徐々に薄れていってくれるように。
そんな人間の認知に関する表裏の複雑さを、まざまざと見せつけてくれる。しかしそれでいながら、作品に流れる空気は絹のように滑らかだ。「思い通りにならないこと」という面があるからこそ、人生の素晴らしさや充実感をより感じられるという、裏彩色。
原題の意味は「目覚め」、それも簡潔で素晴らしい。でもこの邦題には単なる意訳でない、作品への愛が感じられる。さらにはモデルとなった人物への敬意も。原題に手を加えるなら、こうでなくっちゃね。

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