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レナードの朝のEyesworthのレビュー・感想・評価

レナードの朝(1990年製作の映画)
4.8
【期限付きの覚醒】

『ニューイヤーズイブ』のペニー・マーシャル監督、ロビン・ウィリアムズ×ロバート・デ・ニーロ共演の医療映画。神経医学の権威であるオリバー・サックス著作の実話を基にした医療ノンフィクション『レナードの朝』(1973年刊)が原作。

〈あらすじ〉
1969年。ニューヨークの慢性神経病患者専門の病院の新任医師セイヤー(ロビン・ウィリアムズ)は嗜眠性脳炎という病気で、覚醒しながらも脳内は眠り続けている患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に新薬を投与する。そして、30年間昏睡状態だったレナードが、奇跡的に意識を回復。医師は、その治療を病院の他の患者にも適用してめざましい効果をあげていく。しかし、それには大きな副作用と顛末が待っていた…。

〈所感〉
久しぶりに、シンプルに良い映画だった!という感想が持てる作品だった。レナードはたまたま成功しただけで、他の患者まで投薬治療によって「目覚める」なんて流石に映画と言えど、こんな夢みたいな話ないでしょと思っていたら、実話ということで驚きだった。
セイヤー医師が来るまでは、この病院は医師も患者も治す気概など全く無く現状維持がベターだと認識していたのだろう。少なくともこの病院で希望を持っている人など一人もいない。ミロス・フォアマン監督の『カッコーの巣の上で』も似た作品だが、あちらは精神病院なのでもっと暗澹としていた。しかし、セイヤー医師はこの病院には希望があると踏んでいた。レナードだけでなくここには同じ嗜眠性脳炎の患者が沢山いて、また、彼らの症状はそれぞれ異なることを見抜き、一人一人と向き合った初めての医師だったのだろう。そして彼は、レナードによって、我々健常者は目覚めているにもかかわらずちっとも人生が楽しそうではないことに気付かされる。30年の時をまるっきり失っているレナードの言葉は比較できないほど重い。他の患者も同様に失ってきた尊い時間がある。最後は悲しい幕引きだったが、生きているだけで丸儲け。ピリオドを打つには早すぎる。カンマ程度の目覚めでも確かに彼らは掛け替えの無い生を全うしているのだ。ロバート・デ・ニーロは難しい役柄だったろうに引き攣りの演技など油が乗っていて流石である。『レインマン』のダスティン・ホフマンを彷彿とさせる。ロビン・ウィリアムズは優しく穏やかで熱心に人々と向き合う聖人のようだった。彼を見てると改めて「医は仁術」であることがわかる。誰にでも適用できるような技術ではない。医術は病人を治療することによって、仁愛の徳を施す術である。 人を救うのが医者の道である。そんな医師がいるのかは置いといて、彼の向き合い方から学べるものがいくつもあった。
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