カタパルトスープレックス

フェリーニのアマルコルドのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

フェリーニのアマルコルド(1974年製作の映画)
5.0
ボクが一番大好きなフェリーニ監督作品です。モダンな『甘い生活』以降の作品なのですが『道』など初期三部作の朴訥さを併せ持つ稀有な作品。そして、フェリーニの「聖」を描いた作品です。

フェリーニ監督作品は(少なくともボクが観た範囲では)登場人物に自分自身を投影し、俗物として描きます。そして映画の内容は俗物の悪夢です。人生は祭りだ!本作『アマルコルド』もフェリーニ自身を投影した人物が登場しますが、内容は悪夢ではありません。なぜなら、本作でフェリーニを投影しているのは少年時代のフェリーニだからです。波乱に満ちた青年時代に入る前のフェリーニ少年。フェリーニの少年時代の夢です。

登場人物たちもとても個性的です。騒がしい家族、教師とクラスメート、初恋の美しいグラディスカ。

『甘い生活』以降のフェリーニ作品ですので、ストーリーやテーマを気にしてはいけません。映画にストーリーや意味を求める人にはあまり向いていません。なぜなら、この作品はフェリーニの夢の断片なのですから。

春一番に舞う綿毛
ムッソリーニとファシスト党
グランドホテルと石油王
「女が欲しい!」と叫ぶ精神病院で療養中の叔父さん
小舟で見に行った巨大客船レックス号
第七回1000マイル・レース
霧の深い日
煙草屋の女将のおっぱい

雪が降り、孔雀が舞い降りる。
母が亡くなり、グラディスカが結婚する。

そして少年は大人になる。

本作の舞台にもなっているイタリア北部のリミニで生まれたフェリーニ監督。母親は幼い頃、妹が生まれてすぐに亡くし、厳格な父に育てられます。この映画はその頃の記憶なんですね。だからタイトルも『アルマコルド(=私は覚えている)』です。フェリーニも15歳の時にサーカス団の少女ビアンカと駆け落ちします。両親も駆け落ち結婚だったんでしょうか(この映画の話が本当なら)。

この映画を観ると、フェリーニが「映像の魔術師」と呼ばれた理由が分かります。特に筋書きのない断片的なエピソードたち。他の監督だったらとても退屈な作品になっていたでしょう。しかし、フェリーニ作品になれば、その一つ一つが美しく、愛おしくなります。