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東京ゴッドファーザーズのkyのレビュー・感想・評価

東京ゴッドファーザーズ(2003年製作の映画)
4.2
今敏監督によるアニメの垣根を超えたカメラワーク圧巻の一言。
また、今敏監督らしい独特のリアリスティックな演出が見事にマッチしている。
そして、ホームレスという社会的マイノリティーに焦点を当てた物語には強いメッセージを感じる。


あらすじ
クリスマスの夜、東京・新宿に生きる3人のホームレス、元競輪選手のギンちゃん、元ドラッグ・クイーンのハナちゃん、そして家出少女のミユキ。
彼らは、ゴミの中から赤ん坊を拾い上げる。
警察へ届けようと言うギンちゃんとミユキ。
しかし、ずっと子供を欲しがっていたハナちゃんが赤ん坊に勝手に清子と名前を付けてしまう。
結局3人は乏しい手掛かりを頼りに、雪の中、親探しの旅に出発するが…。


感想・考察
今敏監督によるアニメの垣根を超えたカメラワーク
今敏監督といえば「パプリカ」が著名な作品で、アニメで有名な日本においても、その地位は揺るぎないように思う。「パプリカ」を鑑賞した後の余韻は今でも忘れられないほど。実際、その時はアニメとしての余韻というか、後味の悪さからくるものだった。反対に宮崎駿監督作品にあるような良い意味でもアニメ体験ではなく、端的にいえばアニメと思えない異世界風の気持ちの悪い描写がそうさせた。
しかし、今作はというと良い意味でのアニメ体験と今敏監督らしい独特のリアリスティックな演出が見事にマッチしている。というのも、ホームレスという良いのか悪いのか普遍的な題材を扱っていることで、そうさせるのかもしれない。
特に今作におけるカメラワークは圧巻で、実写版アニメを見ているような錯覚の覚えた。人や物に焦点を当ててカメラを動かす実写映画であれば、カメラワークを検討するのはアニメに比べて容易かもしれない。しかし、彼はアニメの中でそれを見事にやってのけている。これは、宮崎駿監督作品などの他のアニメでは見られない演出だと思うのだけれど、それがアニメらしくなくてそういう意味ではアニメ的なリアリスティックを感じさせない。アニメのリアルとは何かと言われれば不明瞭だけれど、”アニメだから”という限定的な認識のことかもしれない。アニメだからこの演出・カメラワークはできないというような。
そういう意味で、今作はアニメの域を超えた作品になっているように感じた。

一方でアニメらしい豊かな表情も
そんなアニメらしからぬカメラワークに驚いたわけだけれど、アニメらしいキャラクターの言動も見ものだったりする。特に目を引くのはおカマのハナちゃんの豊かな表情。嘘に嘘を重ねていたギンちゃんを鋭く指摘するハナちゃんの表情は実写では到底再現することができない表情をしており、シリアスな物語を緩める効果を持っていて、物語の起伏を作るのにも作用していると思える。
そんなアニメらしい側面がある作品だと思えば、近年のアニメやVFXの進歩は凄まじい。特に最近鑑賞した「ドラゴンクエスト・ユア・ストーリー」はもはや、単にアニメーションやVFXというには勿体ないくらいにリアルな映像は、新たな映画ジャンルをつけてもいいような気がしている。
アニメらしいといえば、同監督作の「パプリカ」は実際難解な作品で、そこにアニメらしいハートフルがあるのかというと、悩ましい。一方で今作はアニメらしいハートフルで人情溢れる作風が作品の中へ引き込んでくれる。ホームレスという社会的マイノリティがそうさせるのかもしれないけれど、そんなシリアスなバックグラウンドをか変えながら個の立つキャラクター設定がそうさせてくれる。
そして、資本主義的な世界に駆られて本質的な感情論では動けなくなっている東京人へのメッセージとしても寓話的な印象。特にそんな色の濃い新宿を舞台にしていることもそんな意図があるのかもしれない。
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