りっく

祭りの準備のりっくのレビュー・感想・評価

祭りの準備(1975年製作の映画)
4.6
本作の主人公はシナリオライター志望の青年だ。夢のある作り話ならいくらでも書けるはずなのに、彼は身近な生活に密着した題材しか書こうとしない。非現実的な世界を夢想する余裕がないほど、彼の住む田舎町は閉塞感に包まれている。土着的な逞しさに溢れる人間たちと言えば聞こえはいいが、欲望を剥き出しにした男たちと、それに従って生きることが当たり前になった女たちしかいない。

彼らとは距離を置く青年は苦悩する。この町に住み続ければ、自分も彼らと同じような人間になってしまう。かといって、そのような日常に迎合するしか自分がこの町で生きていく方法はない。女性を本気で愛することなど馬鹿馬鹿しく、そこには男と女の赤裸々な関係しかない。けれども、周囲に追いていかれたくない焦燥感から、彼もまた愛のない情事を求めてしまう。

主人公の置かれた境遇の苦しみが手に取るように伝わってくる。母親の過剰な愛情に嫌気が差すけれども、淫猥な祖父や父親に苛立つけれども、暴れ者の隣人を鬱陶しく思うこともあるけれども、それでも青年は彼らのことが心底嫌いではない。むしろ愛情を捨てきれないでいる。

その想いを断ち切り東京へ向かう場面は、閉塞感から解放された清々しさと、愛する者たちとの別れから生まれる苦々しさで、絶妙な余韻を残すのだ。
りっく

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