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エヴァの匂いのemilyのレビュー・感想・評価

エヴァの匂い(1962年製作の映画)
4.2
処女作が大当たりしたティヴィアン・ジョーンズはフランチェスカとの結婚を控えておりながら、エヴァと連れの男が自分の別荘にある雨の日転がり込んできたことから彼女と出会い、エヴァに魅せられていく。フランチェスカと婚約するもエヴァの言葉に翻弄され、一度は断られたヴェニスに一緒に行く。しかし体は許してもらえない。だからこそ彼女をものにしたく男はボロボロになっていく・・

決して美人というわけではない。なのに虜にする女性。どんなに追いかけても手に入らない。だからこそ追いかけてしまう心理状況を無意識に操り、何もしないそこにいるだけで、男を翻弄してしまう。笑顔がチャーミングな訳でもない。でもごく稀に見せる笑顔に魅せられてしまう。エヴァ演じるジャンヌ・モローのオーラに包み込まれて飲み込まれていく、彼女が吐くたばこの煙に包まれていく。彼女とは対照的にフランチェスカは華麗で気品に満ちており、彼女との人生には幸せしか待ち受けてないように思える。そうしてなによりティヴィアン・ジョーンズを愛している。
心情をつづるように寄り添う音楽が雰囲気を作り、リズム感を生み出している。時にはミステリアスに心を探り、サスペンス感のある煽る音楽が、二人に寄り添う。

空間使いにも魅せられる。特に鏡を使っての奥行き感、盗み見しているようなカメラワーク、波止場、奥に人をたくさん配置し、しっかり日常感と立体感を作り出す。表情を鏡越しに見せることで、私たちが見てる主人公の見せかけの表情と、奥に隠れる本心と両方を見てるような気分にさせる。凍えそうな水面と水の質感、その冷たさがエヴァの心を、そうして本音をさらけ出して生きることの刹那を痛切に感じさせるのだ。

ヴェネチアの夜の街とローマが交差し、その美しさの中の偽りが浮き彫りになるように見える。そうして無表情で上から見下ろすように、いつでも当事者ではなく、外から覚めた目で見ているエヴァのたばこを吸う姿が脳裏に焼き付く。その匂いまでも漂ってきそうなフェロモンの香り。その香りが男を虜にするのだ。冷ややかな表情の中に時折見せるギャップの少女感と女、手に入らない遠くの存在、それは今も変わらず男を虜にしていく要素であろう。それは自分の身を滅ぼしても、誰かの命を奪うことになっても、拭うことのできない香りを植え付けるのだ。
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