葛西ロボ

アラバマ物語の葛西ロボのレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
4.1
 1932年アメリカ南部アラバマを舞台に子ども時代を回想するノスタルジックな物語かと思ったら中盤で一転法廷ものに。黒人差別をフィーチャーしながら、正しさとは何かについて広く考えさせられる。
 子どもたちの父親アティカスはアメリカ映画のヒーロー100選で1位に選ばれているが、劇中で活躍して称賛されるようなことはなく、その良心は父親として葛藤し、弁護士として挫折し、なかなか報われることがない。それでも子どもや傍聴人からの無言の眼差しによって敬意を表される場面が強く印象に残る。
 どこかフランケンシュタインやシザーハンズに通じるものもあるというか、むしろ「アラバマ物語」や現実世界における日陰者をデフォルメしたのが、そういった心優しい怪物たちなのだろう。
 巡る夏の出来事を通してジェスとスカウトの兄妹は、この世界が”強者”の都合によって成り立ってことに気がついていく。無垢であることから一歩踏み出し、命を差別していることに気がつき、それでも無垢な存在の尊さに救われる。
 法廷ものと言ってはみたものの法廷のシーンはちょっと演出過剰で乗り切れず、個人的には子どもたちが父親を見る視点を中心に据えた成長物語として観ました。前半はジェス、後半はスカウト。この2人の子役の「視線」の演技が素晴らしいのなんの。納得の名作。