将来有望ながらもケガでライセンスを取り消され、大恐慌時代で食うや食わずの労働者生活にて辛酸を嘗め、見事王座を射止めた実在のボクサーをラッセル・クロウが演じる。ロッキーみたいに個性的な特訓で強くなるとかケガから復帰して鍛え直すといった要素は皆無で、楽勝では当然ないとはいえ淡々と勝ちあがるため、ドラマチックなボクサーのスポ根ものではないんだよね。電気を停められ街の看板を薪にして過ごす極貧の生活に耐え、何のために闘うのかと聞かれ「(子供の)ミルク」と答える男が、仕事としてボクシングをこなす。ボクサーは少なくともリングでは目前の相手と闘っていればいいんだ、という彼の言葉の裏には人生は日々闘いだ──社会情勢や景気、家族のための責任といった様々な何かと闘ってこそ人生が成り立つのだ──という意識がある。だからこそ人々は彼を国民的ヒーローと讃えたのだろう。不撓不屈の家族愛を貫く男の地味なアメリカン・ドリームの物語。