おそば屋さんのカツカレー丼

秋日和のおそば屋さんのカツカレー丼のレビュー・感想・評価

秋日和(1960年製作の映画)
4.8
人の結婚話を面白がって盛り立てるおせっかい無責任男3人衆の活躍(?)もさることながら、やはり見所は原節子と司葉子の母娘関係と、少女漫画のヒロインの親友の原型のような、肝の据わった同僚の岡田茉莉子でしょう。

小津作品における女性は男社会における都合の良い女性像に見えることがある。娘は育て甲斐がないと言われたり、結婚できなければ人生負け組だと教え込まれながらいつも笑顔で男を出迎えなければならない。父の、ひいては家の面目のためだけに使われていくことさえある。そんな中で女たちは表立った抵抗をあまり見せることなく慎ましく生きている。生かされていると言っても良いかもしれない。観ていてなんとなくそのことに居心地が悪くなることもあったのだけれど、でも、そうじゃないんだと気づいた。女たちは自分たちの生活の中で、世俗性を保ったまま抵抗を重ねているんだと。家出や絶縁をしたり社会運動に身を投じるのではなく、日々の生活の中で、心を無理に鈍くさせたりせずに「わたし」の実感を手放さないまま求められる女性像に「なりすまして」生きている。せめて自分だけは自分自身の姿、気持ちから目を背けるもんかと。
小津が描くのはそういう女の姿ばかりだと思うし、それが本当に魅力的なのだ。