おそば屋さんのカツカレー丼

ほかげのおそば屋さんのカツカレー丼のレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.5
紛うことなき傑作『野火』を想起せずにはいられないタイトルの本作は、エンドクレジットのスタッフの少なさからも分かるように、塚本晋也作品の中では非常にミニマムな作りになっていると思う。女が薄い布団の上で身をよじりながら悶える姿を、復員兵たちの嘆き、贖いの姿を(それにしても、PTSDや自我崩壊によって茫然自失とした彼らが俗世を離れた聖なる人のようにさえ見えるのは何という皮肉だろうか)幼子の視線を借りながら、私たちは目撃していく。
物語の後半で本人が口にする前から、女が戦争孤児の坊やに、喪った子供だけではなく、夫の存在も求めているのは一目瞭然で、。更に坊やもそれに応えるかのように、大人びた振る舞いを見せ始める。長くは続かない2人のささやかな暮らしが、いたく官能的に映し出されているのは、さすがの塚本晋也だった。