垂直落下式サミング

仮面ライダー THE FIRSTの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

仮面ライダー THE FIRST(2005年製作の映画)
4.5
いきなり「せまる~ショッカー!」ではじまり、スタッフクレジットは市川崑の金田一スタイルだから、これも庵野秀明が作ったんじゃないか?ってくらいシン仮面ライダー。歴史のある長寿シリーズだから、これまで原点回帰的な思索はいくつもあるらしい。2000年代に公開されたこれも、そのひとつ。
最初はホッパー1号として、悪の組織のいいなりになって悪事を働いているところからはじまる。そこから洗脳が解けたことで改心して善を成そうにも、女の子一人を守るために三人殺してしまうどころか、助けようと抱き抱えたときに加減がわからずに絞め落としてしまうバケモノっぷり。日常生活でコップ割っちゃう(石森章太郎原作オマージュ)とか、悪の組織に改造されたことで、規格外の生き物になってしまった男の悲哀が伝わってくるようだ。
シン仮面ライダーは、戦闘シーンはそこまでだったから、本作で描かれている生身スタントの実在感によって、お互いの足らないところを相互補完してみたらだいぶ楽になった。
最初組み合ったときに握力で上回る2号、手数は少ないが有効打の多い1号、技の1号と力の2号というスペックの優劣関係を多くを語らないアクションであらわしているのが、とてもよかった。
例によって敵は悪の秘密結社ショッカー。すごく怖くて、ちゃんと「悪の秘密結社」という肩書きに恥じないヤバイ奴らにみえるのが、子供だましじゃない感じ。派手じゃないし語られない部分が多いのに、高い組織力と異常性をもった団体なんだってわかる。
後年に再解釈されたショッカーのなかで、いちばん好きかも。ゼロ年代に流行った都市伝説とか新興宗教の暗部っぽい感じで、めちゃくちゃ怖いんだよ。バイクで走ってたら道ふさいできて、「おめでとう。あなたは選ばれました!」って怖すぎるんだもん。 
さらに良いのは、敵ひとりひとりが単なる「怪人」じゃなかったところ。コイツらも同類の「改造人間」なんだなって。コブラとスネークとか、アイツらはアイツらで重いもの背負ってんなって。恋人同士で、病気治んなくて死ぬんだったら、そりゃあ改造うけるよね。
ウエンツ瑛士は、バラエティでイジられているときとは違ってビックリ。黙っていると色が白くて線が細くて、なにやら病的な闇を抱えていそうなイケメンの役が似合っていた。
仮面ライダーに恋愛要素みたいなのが加わることに最初は抵抗あったけど、このバトルにラブロマンスが加わることで、原作の本質を補強している部分もあると思う。
素顔の自分なんか女に愛されるわけないじゃん…、ありのままじゃ異性に相手にすらされないじゃん…、という日本人男性特有のウジウジたルサンチマンみたいなのがひとつ乗っかって、これがけっこう「怒りと悲しみを隠すために仮面(ペルソナ)をかぶる」石森章太郎の原作のイズムの正統な継承にもなっていると思う。
男の子の最も素晴らしい能力のひとつは、グロテスクなものをカッコいいと感じる目を持っていることだ。昆虫を身にまとって一体化したら、バッタ男なのにこんなにかっこいいんだぜ!石森ヒーローは、デザインそのものに感動があるのが、素晴らしいんだと思う。
でも、君らのど真ん中にあるその原体験は、たいがいにおいて女の子には理解されないのである。根底はわかりあえない。そんな悲しみを、人生かけて背負わなきゃいけないんだよ。
降りかかるのは呆れ果てたかのような声色で発される心ない言葉。「もう、いい加減こういうの卒業してよ。」少年たちよ!これから君らの進行方向から幾度となく吹きすさぶであろう逆風に、あらがいながらも愛を捨てずいきる。そんな勇気はあるか?!


【メモ】
デジタル出演の天本英世の死神博士!?AI美空ひばり以前に実現していたのか!?たぶん普通に過去素材のコラージュ。でも、凝ってんな。