えくそしす島

悪魔のいけにえのえくそしす島のレビュー・感想・評価

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
3.7
【悪魔のいけにえ(邦題)】

ありとあらゆる作品に影響を与えたホラー映画の金字塔。

近年で言えばゲームのバイオハザード7のベイカー一家は「悪魔のいけにえ」のソーヤ一一家(家主はシャイニングのジャックか)の構成や構図、ディテールを、ほぼパクッ…オマージュして使っている。

監督はトビー・フーパー。今作を観たスピルバーグによって、後に「ポルターガイスト」を手掛けることになる。

有名な話だがマスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されている。その芸術性や映像美が高く評価されている作品だ。

作品を視聴したギレルモ・デル・トロが、数年間に渡り肉類を食べられなくなった、なんて話もあるが実は直接的な表現はあまり無い。
裏を返せば、直接的な表現が無いのに食べられなくなった、とも言える。

あらすじ
墓が何者かにあらされる事件が勃発していた1973年のテキサス。墓の無事を確かめるとともに遊びも兼ねて、五人の若者が訪れる。
その道中、同い年くらいのヒッチハイカーを車に乗せるのだが…

元ネタとして有名なのは実在の殺人犯、エド・ゲインの事件をモチーフにした、というものがあるが、それは違う。
監督が特に否定しなかったが為に定説となってしまった。
作中に出て来る「レザーフェイス」は監督が医学部時代に恩師のジョークから着想を得たと自ら語っている。

ホラーと言えば低予算。監督も役者も登竜門的なジャンルでもある。
限られたもので如何に怖く、如何にリアリティを出し、如何に観る者を惹きつけるか。その答えの一つがこの作品にはある。

レザーフェイスを演じたのはガンナー・ハンセン。だが、撮影中ガンナーは他の役者とは隔離されていた。というのも、突如現れたレザーフェイスに対して、演技ではなく素の反応を出させる為にだ。
そして、役者達は見た目も知らないレザーフェイスに初遭遇する。
映画史に残るそのシーンは未だに観るものを魅了する。

血が出た指をちゅーちゅーされるシーンがある。これも実際に指を切られて出血している。

足を引きずるシーンでは実際に怪我をしている。

映画内で増えてくアザも本物だ。化粧で消している時があるほどだ。

他にも今となってはタブーだらけの撮影方法だが、それらが深みとなっているのも事実だ。

予算の都合で直接的な描写が作れなかったのも結果的には正解だった。観る側の想像に委ねる。想像力とは普遍的なものだから。

作中のBGMを排し、効果音と絶叫音の臨場感を最大限に活かし、低予算ゆえの安価なフィルムをスクリーンに合わせ映像のサイズを拡大した。そのため画質が荒くザラつき、このドキュメンタリータッチの「映像美」が偶然にして生まれた。

良くも悪くも粗く、表現や描写は汚く、悪臭がしそうな(実際に過酷すぎる現場で物凄い悪臭が充満していた)程なのに、見方によっては美しいという相反する映像が一つの作品に収まる。

物語としては「あはは待てー!」と「うふふ嫌ー!」だけだ。

余計なものが一切無いので、只々今起きている事にだけ集中して観れる。
そして、この作品に感情移入が出来る登場人物がいない。どちらかと言えば…いや、なんでもない。
そのおかげで一傍観者として観れる。それが今作をより一層引き立たせている。

見所は多々あるが、特に「晩餐会」と「美しいラストシーン」に注目したい。
ホラー映画の歴史に残るあの有名なシーンだ。
未視聴の人達が羨ましくもある。

この作品は様々な要因が重なり、かつほぼ全てが良い方に転んだ奇跡のような映画。

とは言え古い作品だ。
今観たら安っぽい部分も多い。それは致し方ない。
だが、「既視感満載」の意見だけは少し違う。
その既視感の原点でもあるのだから。