毎日ヨーグル党

別離の毎日ヨーグル党のネタバレレビュー・内容・結末

別離(2011年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

映画冒頭、「この国の子どもに未来はないと?」「難しいと思う」というやりとりがある。
子どもとは娘・テルメーの話なのだから、流れとしては子どもを女の子と置き換えたほうがわかりやすい。

では何が問題なの?なんでこの国の女の子の未来は難しいの?というと、本編で描かれている事がそのまま答えだと思う。

気になった所を書き出してみると、

・妊娠中のラジエーは幼いソマイェを連れ、毎朝5時からバスを乗り継ぎ働きに出ている。
・ラジエーの夫 ホッジャトは無職。ラジエーが事故に遭い堕胎するほど体調を崩した事も知らなかった。未だ再就職の見通しはなく、失うものはないと暴れまわる。
・裁判とはいえ流産したばかりのラジエーを連れ回す。いたわる言葉は無い。
・ナデルは娘から何度も「母は戻る気がある。話してくれ」とお願いされ、約束したのにも関わらず妻へ頭を下げる事ができない。最終的に妻からも「テルメーが貴方の側にいるのは離婚を止めたいからだ」と、テルメーからも「母は戻って来るつもりだった。荷物を持って来ていた」とすら言われたが、妻へ戻ってくれと願う事はない。
・娘に「本当は妊娠を知っていた」と嘘を見抜かれても覆さない。
・夫達は喧嘩ばかり。裏で奔走するのは女性側。

男性側が罵倒する際「恥を知れ」と何度も言っていたのも印象的だったな。
ようはプライドが高く、傲慢な男性と彼らに尽くす女性という構造が完成されている。

み、未来、難しい〜〜!

特にテルメーは勉強熱心だから、金銭的に余裕があるならば一度外の世界を見せてやりたいという親心も分かるというものである(イランが特別ダメな国だと言いたいわけじゃないけどね)
あとシミンはナデルを愛していない訳でも無いとも思う。DVや薬物乱用もない、優しい夫。でも、妻へ頭を下げることができないくらいには傲慢で、嘘を嘘と後から認める事ができないくらいには見栄っ張りで利己的でもあるし、やはりテルメーの事もある。

それから、作中、ナデル側の親類がラジエーへ「あなたは若いからまた子どもは産めると言ったわ!」と普通に会話するのもなんだかな。
流産させた側の人が言う言葉では絶対に無い。

話が逸れたけど、この話で一番見ていて苦しくなるのはテルメー。
母シミンが出て行く時も両親の様子を伺い、仲直りをしてほしいと何度も父親へねだるが約束は反故にされてばかり。
最終的に殺人罪を犯したかもしれない父親を庇って嘘をついてしまう。
11歳の女の子にそんな罪悪感を背負わせるなんて、と悲しくなってしまった。
そんな彼女へ向けるソマイェの憎しみを込めた表情も見ていてつらかったな。
傲慢な男性と彼らに尽くす女性、そして彼らのもとでひっそりと犠牲になる子どもという構造は見ていてくるものがある。

だいぶ長くなってしまったけど、そつのない脚本であっという間に見終わる映画だった。キャストも演技が感情豊かで見ていて引き込まれてしまった。

最後、テルメーは母親と共に海外へ移住するんじゃないかな。
というより、して欲しい。