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別離のmasayaanのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
3.5
片手で数えられるほどの本数しか見た事のない立場でこんなことを言うのは僭越だが、同じイラン映画の国際的話題作である『チャドルと生きる』が見せたマッドがMAXな焦燥感(あれはもはや実験性と言ってもいいと思う)に比べれば、この映画の主役夫婦が見せる既視感に満ちた仲違いは、いささか拍子抜けするほどのものではある。

そう、現代日本でもまさに顕在化している社会課題がいくつか散見される中で、例えばそのうちの一つである親の介護の為に人を雇う立場にある彼らの暮らしは、恐らくイランの一般市民の中でもそれなりに中流以上かと思われ、彼らに雇われる側にあるもう一組の夫婦(夫は失業中である)の生活を思えば、良質な裁判ドラマでもあるこの映画を必ずしもフェアには見られないところもある。

しかし、『現実的なもの』(司法、示談、証言)に固執するこの二組の夫婦を同質に揺さぶる『真実的なもの』(嘘を嫌う子ども、あるいはコーラン)がそれぞれに存在しているのがミソで、結論からすればそれら現実的なものが真実的なものに圧倒される瞬間にこそ真実的な「別離」が描写されているわけで、家裁や示談の結果を待つまでもなく、人はすでに裁かれているのだろう(そういう意味では納得のエンディング)。

映画批評メディア『ディゾルヴ』が選ぶ「2010年代のベスト50」、第5位の作品。

https://thedissolve.com/features/the-dissolve-canon/909-the-50-best-films-of-the-decade-so-far-part-2/
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