ケン・ローチ監督作。
内戦最中のスペインを舞台に、ファシズム打倒のため民兵組織に参加するイギリス人青年・デヴィッドの姿を描いた戦争ドラマ。
ケン・ローチ監督が、1936年~39年に渡ってフランコ率いる反乱軍とスペイン人民戦線政府の間で発生したスペイン内戦を真っ向から描いた力作で、外国籍(イギリス)の青年が、若い男女で構成される民兵組織に参加し、ファシズム打倒のための戦いを繰り広げる中で、スペイン人民戦線政府内部で勢力を増すスターリン主義者の圧政に直面する...という“イデオロギーに翻弄される青年”の姿を生々しく迫力に満ちた塹壕戦の映像とともに力強く映し出す。同じ民兵組織に従軍する女性との衝突とロマンス、そして、考え方の違いによる民兵組織内部の対立・分裂など見どころが多い。
ファシズムとスターリニズム、二つのイデオロギーが主人公・デヴィッドを翻弄する。ファシズム打倒という共通目的のため、国籍もばらばらの若者たちが一致団結して反乱兵と激闘を繰り広げる。だが、デヴィッドが所属する民兵組織は「POUM」という反スターリンの共産主義組織であり、スペイン人民戦線政府内部のスターリン主義者とは距離を置いている。それが原因となり、やがてデヴィッドたちはスターリン主義者から敵対視・粛清の対象とされていく。
スペイン内戦を描いた作品では『誰が為に鐘は鳴る』(1943)が最もメジャーではあるが、本作ではスペイン内戦を「対ファシズム戦争」という意味合いだけに留まらず、むしろ、ファシズム以上にスターリニズムの残虐性を浮き彫りにさせている。スターリン主義か反スターリン主義かの違いだけで、同じ共産主義者であるはずの“同志”を容赦なく粛清していく恐怖。ファシズムを潰すために都合のいいように使った挙句、最終的には共産主義の敵と見なして駆逐するという狡猾さ。国と共産主義に裏切られ、孤立無援の状況下で徐々に追い詰められていく民兵たちの姿が切ない。
自分が信じてきた共産主義の党員証をびりびりに破り捨てるデヴィッドの姿が印象的で、共産主義・スターリニズムの真の恐ろしさにデヴィッド自身ようやく気づいた瞬間だ。そして、タイトル『大地と自由』の真意を、時代と国境をシームレスに飛び越えながら表現してみせた鮮烈なラストに言葉を失う。全てを捨ててまで拘り続けた大地と自由への想いが、それを受け継いだ者の手によって最後に持ち主の元へと還る。人に寄り添い続けるケン・ローチ監督のひとつの到達点とも言える、秀逸な演出だ。
ちなみに、スターリニズムの恐怖を題材にした作品には『映写技師は見ていた』(1991)や『告白』(1969)(※邦画ではありません)といった傑作が他にもあるので、興味のある方は是非。