垂直落下式サミング

ファッションが教えてくれることの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
私は、彼女の服のことを「引退したプロレスラーみたい」と言ってめちゃくちゃ怒らせたことがあるくらいなので、もともとファッションには疎い。
「だってホラ、長州さんも着てたから」と弁解するも火に油を注ぐ結果に…。デート中ずっと機嫌悪いから空気を変えたくて、「長州さん、キレたんですか?」って聞いたら、もう烈火のごとくキレましたよね、長州さん。それ以来、人の服のことは言わないようにしてる。

本作は、アメリカ女性の10人に1人が読むというヴォーク誌の9月の特集号ができるまでを取材したドキュメンタリーだ。
ブランドはあまり興味がないし、ヴォーグを知らないどころか、普段はキン肉マンのTシャツを生乾きで着ているイモ野郎なのに、何となく観ることになった。
プラダを着た悪魔のモデルといわれる女編集長が登場。その決断の早さや気迫のこもった表情に、みているこちらまで緊張感を強いられる。優秀なデザイナー軍団によって構成された編集チーム。現場は彼女が白だと言ったら黒いものも白になるような雰囲気だ。彼等の仕事は第一に編集長を納得させること。下手には逆らえないが、自分の意見を曲げずに押し通したいならば、彼女に才能を示し認めさせなければならない。
かなりの影響力をもつ仕事現場で、多くの才能ある人が妥協を許さずそれに従事しているということはわかったが、この題材にして単なる取材番組の域を出ていないと感じた。
アナ・ウィンターは、なぜ頂点まで登りつめることができたのか、なぜこれほどに冷徹に割り切ることができるのかと、この女傑の流儀に焦点をあてても面白いのではないか。
或いは、ファッションが人の生活に何をもたらすのか、その可能性とは何なのかを最高峰のプロフェッショナルたちが考察するのであれば、「ファッションが教えてくれること」という邦題が示すように、生乾きTシャツのバカが人生観を変えられるような、外側に開かれた作品になったと思う。