カラン

回転のカランのレビュー・感想・評価

回転(1961年製作の映画)
4.0

☆おかしなタイトル
ヘンリー・ジェームズの小説『ねじの回転』を原作とするゴシックホラー。邦題は原作によせて『回転』としたのだろうが、特段に何かが回転するわけでもないので、『ねじの回転』としなければ、意味をなさないような気がする。せめて『ヘンリー・ジェームズの回転』とかねえ。(^^)

映画の原題は”The Innocents”である。つまり「無垢なる子供たち」を意味する。デボラ・カー演じる家庭教師の女は屋敷にやってきたその日から心霊現象を体験する。彼女の考えでは、異様な性的関係を取り結んでいた男女の悪霊が子供たちに取り憑いている。しかし映画の原題に従うならば、子供たちは無垢であるのだから、おかしいのは家庭教師の精神状態ということになるし、お兄ちゃんを殺したのもこの家庭教師ということになる。


☆ホラーなの?精神異常なの?

幽霊が実在するのか?それとも、家庭教師が心的異常をきたしたのか?

ここの判別に一ひねりきかせたいと思ったのが小説の原作者なのか、映画の脚本家なのかは知らないが、家庭教師の抱えた精神病的な迫害妄想が子供の殺害に至ったはずなのに、子供は最後に唐突に息を止める。つまり、家庭教師が殺したのではなく、妙竹林な呪殺にでもあったかのような死に方をするのである。そうそう、たしかに家庭教師が精神病の主体である兆候はそもそもなかったのだ。


☆秘すれば恐怖となり、、、ませぬ

要するにこの映画は家庭教師が異常である痕跡を示さず、子供が幽霊に取り憑かれたことも示さず、かつ、しつこくデボラ・カーの驚愕した顔を映した末に、子供がころっと死ぬ。文字通り子供騙しの次元なのは明白である。病気では、、、ない。幽霊でも、、、ない。だから怖く、、、ない。子供をちゃんと絞殺して、それこそが幽霊の仕業なのです、としなければこの物語は怖くないんじゃなかろうか?


☆ロケとディゾルブと省略とサントラ

ロケは美麗な景観を楽しめる。しっかりと草葉に光が乗ったディープフォーカスは見事である。肖像画や彫像などの存在感のある美術を散りばめながら、それ以上にリッチな屋敷の空間にしているので、とってつけたような舞台美術ではなく、人物の背景で微妙に誰かに見られている、なんだ、ただの絵か、、、となるくらいに映画の展開に上手く定着していた。美術賞をあげたい。

通常、2つのシーンの最後のショットと最初のショットが重なりあうのがディゾルブとされるが、3重、4重のレイヤーが形成され多重露光する。大きな顔が多重露光しているのはデヴィッド・リンチの『イレイザーベッド』みたいだなと。

顔を向けてゴーストを捉える一連の視線の運動で、ゴーストの直前で小さな省略が入るので、映画内の展開では自然な経過で、鑑賞者にとっては突然ぱっとゴーストが出現する。この省略は良い。

ノイズ系のサントラ。良いと思う。





レンタルDVDで視聴。これはVHSからDVDに直接コンバートしたのではなく、フィルムからやったものだろう。良い画質で、良いサウンド。話はつまらないのだが、画も音も良かったので4点とした。(^^)
カラン

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