猫脳髄

回転の猫脳髄のレビュー・感想・評価

回転(1961年製作の映画)
4.6
黒沢清「ホラー映画ベスト50」(1993)第2位
マーティン・スコセッシ「映画史上最も怖いホラー映画11本」(2009)

Jホラーの父祖である高橋洋いわく、「Jホラーとは日本の伝統云々以前にまず、1960年代にアングロ・サクソンが生み出した幽霊映画の復古運動だった」という。本作はまさにその始源の一作、金字塔である。原作のヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」は、亡霊を直接記述せず曖昧にすることで読者の想像力に訴えかける朦朧法を採用した怪奇・心理小説の代表例である。

美しき家庭教師デボラ・カーが、両親を失いおじに引き取られた兄妹を世話するため、田舎の大邸宅に到着する。無邪気な妹と、ませた兄を愛おしく思うカーだったが、邸宅には過去の悲劇で亡くなった亡霊たちの気配が漂うようになる。兄妹を亡霊の影響から守らんと奮闘する家庭教師だったが…という筋書き。

何といっても亡霊登場の描写と、カー演じる家庭教師の心理描写が素晴らしい。ややネタバレになってしまうが、登場する男女の亡霊のうち、特に女性の亡霊である。真昼間の明るい湖、カーが視線を送る遠い茂みのなかに、ロングショットで小さく、茫然とたたずむあやふやな姿。何もせずにこちらを見ているだけだが、はっきりとこの世のものではないことを観客に確信させ、慄かせる。立っているだけで怖い。これこそまさに「発明」、エポック・メイキングである。

それから、デボラ・カーの演技、特に目の動きで「ああ、亡霊が出る」という確信である。実は本当に亡霊のせいなのか、亡霊を含めてカーの狂気の問題か、最後まで結論を曖昧にしており、次第に変調していく大女優の姿も特筆すべきものがある。製作から半世紀を過ぎても描写の強度が落ちず、傑作と呼ぶにふさわしい。

なお、幼い妹役のパメラ・フランクリンは、12年後にまたも名作となったジョン・ハフ「ヘルハウス」(1973)に可憐な霊媒師として帰還することになる。
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