青乃雲

海辺のポーリーヌの青乃雲のレビュー・感想・評価

海辺のポーリーヌ(1983年製作の映画)
4.0
もしも僕が女の身体性をもつ場合には、エリック・ロメールをどんなふうに見るのかは分からない。いっぽう、男の身体性をもつ現状であれば、この下品さすれすれの嬉しさをどうしても味わうことになる。

オープニングのMorris Mini Minor(モーリス・ミニ マイナー)の動きからして、なんてエロいんだろうと不思議な感動に包まれる。車の動きをさえ、こんなふうにエロく撮れる人は、たぶんロメール以外にいないのではないだろうか。

そして、頭から尻尾まで餡子(あんこ)の詰まった、たい焼きを食べたような嬉しさに近いこの映画について、いったい何を語りうるだろう。そんなふうに思ってみたとき、エリック・ロメールの作品はすべて、たい焼きの美味しさが美味しかったかどうかになるように思う。

従姉妹(いとこ)という関係にある、14歳のポーリーヌと離婚歴のある若く美しいマリオンが、夏の海辺の避暑地へやってくる。そこで出会ったマリオンの旧友である青年ピエールと、中年でプレイボーイの学者アンリとの間で交わされる三角関係。いっぽうポーリーヌもまた、同じ年頃のシルヴァンと恋人ごっこのような関係を結んでいく。

女2人と男3人の恋や愛をめぐっての喜劇は、どこかウィリアム・シェイクスピア(1564-1616年)の『真夏の夜の夢』のようでもあり、それぞれに愛への考え方をあてもなく話していく姿は、レイモンド・カーヴァー(1938-1988年)の『愛について語るときに我々の語ること』のようでもある。

そして、彼らの語ってみせたことにせよ、彼らのとってみせた行為にせよ、意味らしきものはまったくない。それらに真剣につきあってしまうと馬鹿を見ると言えばいいのか、しかしながらエリック・ロメールの真骨頂はその点にこそあるように思う。

原材料や調理方法によって美味しくなる食べ物ではなく、そのときふと立ち寄ってみた屋台のたい焼きが、奇跡的に美味しかった。この作品の魅力はそうした瞬間の奇跡が、意図的に生み出されているということに尽きるように思われ、エリック・ロメールの作品はすべて、そのようにして成り立っているような気がする。

★フランス
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