りっく

E.T. 20周年アニバーサリー特別版のりっくのレビュー・感想・評価

4.3
自転車に乗った子供がETに誘われ、地上を離れ大空へと駆け上っていく。ジョン・ウィリアムズのテーマ曲がフルで鳴り響く中で、月や夕日をバックに彼らのシルエットが浮かび上がる。そんな美しい光景に立ち会える権利は、子供たちにしかない。どんなに大人たちが眼前に立ち塞がろうと、彼らを軽々と越えられることを観客は知っている。自分の願望が現実になった瞬間、最大級のカタルシスが訪れる。

ETは地球外生命体の意だが、彼が無害だと観客に分からせる描写が随所に挟み込まれる。生命ある動植物を愛し、人間と同じ食べ物を食べる。あるいは、エリオットが撒いたチョコを食べずに、集めて返そうとする。子供たちだけが体験していくETの優しさや健気さを眼にすることで、観客を子供の目線と巧みに同化させていく。

だからこそ、本作で登場する大人はホラーテイストで演出される。いちいち挿入される“カギ男”、カエルを解剖させる先生、家に侵入してくる研究者たち。人間である彼らの方が子供にとっては恐怖の対象になっている。

本作は大人という「他者」が侵入してくることもあるが、ほぼ一貫して子供の世界で展開される。したがって、ラストのETとの別れの場面で、大人は子供たちを温かく見守っているだけだ。ETと同じく「GoodBye」という言葉の意味を知らない彼らが、別れの痛みを知り成長していく姿が頼もしく見えてくる。
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